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64.笑顔


アンバーはフゥーと息を吐いた。


「まだ5歳の私はただ闇魔法が恐ろしかった。

でも、あの方、ジェンキンス公爵がおっしゃった。

『闇魔法が恐ろしいのではない、それを悪い事に遣おうとするから恐ろしくなる。

闇魔法を正しく遣えば、救えるものが沢山ある。

君は正しい闇魔法を遣ってみたくは無いのか?』と」


「正しい闇魔法」


アンバーはフッと笑う。


「正しい闇魔法など幼い私には考えもつかなかった事だが、不思議とその言葉に救われたんだ。

そして、ジェンキンス公爵はあの父を説得して私を魔法学校へ入学させてくれた」

「5歳で魔法学校へ?」


通常魔法学校へは8歳以上の魔法の才ある子どもが選ばれて入学するはず。


「魔法学校に通う事になり、私は大分父の呪縛から解き放たれた」


呪縛と言う位だからブルックス侯爵の魔法への拘りは病みに近いものだったのだろう。

それに今のアンバーは呪縛など微塵も感じさせない自立した魔法師だ。


「大変だったのですね」


「いや、私はジェンキンス公爵に救われた。魔法学校へ入学後もお忙しいのに何かと気にかけてくださった。あの方は私の恩人でこの世で最も尊敬すべき方だ」


ん?

アンバーがキラキラしている。

まさか、ジェンキンスのおじさまに恋してる?


「まさか」


ちょっと慌てるわたしに気付いたアンバーの眼差しがキツくなる。


「ロージー・ブルックス、まさか私がジェンキンス公爵に懸想しているなどと勘違いしていないだろうな?」

「えっ、あの、その」


アンバーはフゥと溜息を吐いて言った。


「私のジェンキンス公爵への想いは恋とか愛とかそんなちっぽけな次元のものではない。

あの御方はこの世の何より尊く、敬うべき存在。

尊きあの御方の為なら、この命を賭しても戦う!」


えっと、アンバーはもしかして、ジェンキンスのおじさまの信者かな?


興奮したアンバーはジェンキンスのおじさまを讃えて喋り続けている。


困惑してそっとエリオットを窺うと、目が合った。

エリオットはゆっくりと頭を振りわたしの耳元で囁いた。


「アンバーに父上の話をさせたら、何時間でも話し続けるぞ」


ですよねー。

もう一度アンバーを見る。


「だからこそ、ジェンキンス公爵に害なすギッテンス率いる謀反勢力は断固叩きのめす!」


えっ?

謀反?

今物凄い国家機密をサラッと言ってない?


「アンバー・ブルックス、

その話は魔法院まで待て」


エリオットの氷点下発言でアンバーが押し黙る。

馬車内の静けさが痛い。

これは何か言わないと。


「あ、あの、アンバーはジェンキンス公爵に出会えて本当に良かったですね」


これは本心。

あのブルックス侯爵家に一人でもマトモな人間が居て本当に良かった。

ジェンキンスのおじさまとシモンズの叔母さまに感謝だね。


アンバーはハッとしたようにわたしを見て満面の笑みを浮かべて言った。


「本当に」


その笑顔はびっくりするくらい美しかった。

クレア・ギッテンス公爵令嬢よりもミア・パターソンよりもマチルダなんかよりも、ずっとずっと綺麗だと思った。







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