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62.拘束

 

「黒い靄を消す」


 呪文のように呟きながら、わたしはクレア・ギッテンス公爵令嬢から放たれる黒い靄を浄化していくが、黒い靄は放たれ続けキリがない。


 わたしの魔力は膨大でこれくらいでは枯渇しないけれど、流石に疲れてはくる。


 スーっと額から汗が落ちた。


「ロージー、大丈夫か?

 もう少しだ。頼むぞ」


 エリオットが心配そうにわたしを振り返って見つめる。


 いつものエリオット。

 大好きなエリオット。

 信じられなくてごめんなさい。

 貴方を愛してる…


 その瞬間わたしの右手から膨大な光が放射線状に放たれ黒い靄が完全に途切れた。


「今だ」


 エリオットはそう叫ぶと右手からキラキラした光を発した。


「ひっ」


 クレア・ギッテンス公爵令嬢がその瞬間、目を閉じた。


「拘束」


 アンバーが黒い縄の様なものを放ち、クレア・ギッテンス公爵令嬢をグルグル巻きにする。


「やめろぉーーーーーーーーー!!」


 拘束に気付いたクレア・ギッテンス公爵令嬢は令嬢とは思えぬ口汚ない言葉を発するが、やがて身動きが取れなくなり、人形のようにがっくりと膝をついたまま動かなくなった。


「クレア・ギッテンス、これからヴィー・パターソンを邸から連れ出すから、使用人たちが邪魔をしないようキチンと指示してくれるかしら」


「ハイ」


 項垂れたままクレア・ギッテンス公爵令嬢が頷く。


 これって闇魔法?

 アンバーって闇魔法師?

 わたしの頭の中は疑問でいっぱいだ。


「お嬢様!」


 其処へ騒ぎを聞きつけた数人の使用人たちが駆けつけた。


「声が聞こえましたが大丈夫ですか」


 おずおずと執事らしき男性が声を掛けると、クレア・ギッテンス公爵令嬢はヨロヨロと立ち上がり言った。


「ダイジョウブニキマッテイルデショウ。

 ソレヨリココニハチカヅクナトイッタノヲワスレタノ」


 話し方が棒読みに聞こえるけれど、使用人たちはその言葉に怯えて、蜘蛛の子を散らすように去って行った。


 でもこの状況はいったいどういう事?


「あ、あのこれは…」

「話は後だ。

 先ずはヴィー・パターソン男爵令嬢を救出する」


 エリオットの言葉の勢いに思わずコクコクと頷いていると、エリオットは部屋からヴィー・パターソン男爵令嬢を抱き抱えて出てきた。


 あ、お姫様抱っこ…。


 今は緊急事態で一刻を争うのだろうと何となく分かるけれど、お姫様抱っこ…。

 羨まし過ぎる。

 わたしも一度でいいからして貰いたいのに…。

 ヴィー嬢に先を越され、何気に敗北感が。

 やはりヒロイン補正なのかしら…。


「ロージー・ブルックス、そんなに羨ましそうに涎を垂らしているとジェンキンス卿が気不味いだろう」


「えっ?ヨダレ?」

 思わず口の辺りを拭ってみるけど、涎は垂らしていない。

 可笑しいと思い言葉の主のアンバーを見る。


「プッ。

 例えだよ、例え。

 涎を垂らしていそうな位羨ましそうだが、急いで邸を出なければ更に危険になる」


「更に危険?」


 気付くとギクシャクとした動きのクレア・ギッテンス公爵令嬢を先頭にヴィー嬢をお姫様抱っこしたエリオットが、もう廊下の端である玄関前のエントランス付近に到達していた。


「行くぞ」

 アンバーの声に頷き、小走りでエントランスまで

 行くと、クレア・ギッテンス公爵令嬢が先程の執事に止められていた。


「お嬢様、パターソン男爵令嬢を何方へお連れになるのですか?

 おやめください!

 旦那様には決して邸から出さないように厳命されておりますのに」


「オマエ、ワタシニメイレイスルキカ?

 ヴィー・パターソンハベツノバショニウツスノダ。

 ソコヲドキナサイ!」


 抑揚のない言葉だが、普段からパワハラ気質だったのか執事はビクッとして道をあけた。


 エントランスから外へ出ると、わたしとエリオットが乗って来た馬車が待っていた。


「その馬車で行くわよ」


 アンバーがクレア・ギッテンス公爵令嬢に告げると、アンバーは馬車に乗り込んで行く。


「あ、あのギッテンス公爵令嬢も連れて行くのですか?」


 その言葉にアンバーは少し目を細めて囁いた。


「やっと捕らえた犯罪者の一人を連れて行かなくてどうするの」









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