59.面会
翌々日にはもうヴィー・パターソン男爵令嬢との面会がセッティングされた。
早いね、仕事が。
と言うより、そんなにすぐけりを付けたいのかと疑ってしまう。
スタンリーとデュランは心配して、ついて行こうか?と聞いてくれるけど、かなり惨めな思いをしそうだから、同行はお断りする。
「大丈夫だよ。
少しお話しするだけだし」
一昨日の朝食時のわたしの取り乱した様子を見て、ジェンキンス公爵夫妻やスタンリー、デュランも、わたしに対して腫れ物を扱うみたいだし、どうもエリオットに何か言われているのか核心には触れて来ない。
結構居た堪れない状況である。
覚悟を決めてアンナに綺麗にメイクして貰い、エリオットとともに馬車に乗り込む。
エリオットときたら、目も合わせないのが、地味に心を抉られる。
「そう言えば、ヴィー嬢は今何方の御屋敷にいらっしゃるの?」
小説では確か何処か信頼できる人に預けたと言う設定だったけれど、そもそもの前提が崩れているので、もう予測がつかない。
「親戚に当たるギッテンス公爵家に居る」
もう、ちょっとした事では驚かないと思っていたけど、これにはビックリだ。
それじゃあ、エリオットは毎日ギッテンス公爵邸に通っていたと言う事か。
クレア・ギッテンス公爵令嬢とも毎日会っていた?
じゃあ、王太子も通っていた?
否、それは流石に無いだろう。
幾らフットワークが軽くても、王太子。
それに王太子と同行していたら、今こんな話になっていないだろう。
エリオットとヴィー嬢が惹かれあっているのを知っていたら、ギルならきっとわたしにフォローしてくれる筈。
目も合わせないエリオットと悶々と考え込むわたしはやがて立派な邸に着いた。
ジェンキンス公爵邸に負けず劣らず立派だけれど、ギッテンス公爵邸は煌びやかな造りだ。
わたしは重厚な造りのジェンキンス公爵邸の方が好みだけど。
馬車から降りると、クレア・ギッテンス公爵令嬢がわざわざ出迎えてくれた。
「エリオット様、本日もお越しくださってありがとうございます」
「此方こそ毎日伺って申し訳ありません」
クレア・ギッテンス公爵令嬢は軽くわたしを無視しているみたいだ。
考えてみたら、エリオットを婚約者でもないのに名前呼びしてるよね。
前回王宮で会った時もエリオット様、って。
王太子妃になられる方がそれでいいのだろうか。
「今日はブルックス侯爵令嬢もご一緒なのですね」
急に声をかけられて慌てて挨拶する。
「本日はお邪魔致します」
ギッテンス公爵令嬢は顎に手を当てわたしをじっと見つめるので少し気まずい。
「丁度、アンバー・ブルックス侯爵令嬢もいらしていましてよ」
「えっ?」
「アンバーは魔法院の調査でヴィー嬢と面会している」
あんぐりと口を開けそうになるのを堪えて下を向くと、案内致しますわ、とギッテンス公爵令嬢がエリオットの腕を取る。
なんだろう?これ。
ギッテンス公爵令嬢、未だエリオットに未練有り?
王太子とはどうなっているの?
混乱を極めながら二人の後ろをついて行くと、奥まった部屋にたどり着いた。
エリオットが扉を叩くと、中からハイ、とハスキーな声がした。
扉を開けたのは、長姉アンバーだった。
「ジェンキンス卿、そしてロージー・ブルックスも。お待ちしておりましたわ」
「失礼する」
入室するエリオットと共にギッテンス公爵令嬢も入ろうとしたので、アンバーがやんわり止める。
「申し訳ありませんが、ギッテンス公爵令嬢。
公務となりますので暫しご遠慮頂けますでしょうか」
ギッテンス公爵令嬢はグッとくちびるを歪め悔しそうに呟いた。
「公務なのに貴女の妹は入れるんですの?」
「ロージー・ブルックスは公務として呼ばれています、ギッテンス公爵令嬢」
凛として答えるアンバーはかっこよかった。
それにしても、クレア・ギッテンス公爵令嬢。
初見とイメージが違う。
これでは何処かの悪役令嬢みたいだ。
王宮では猫でも被っていた?
わたしが部屋の中に入ると、アンバーはギッテンス公爵令嬢の鼻先でバタンと扉を閉めた。
ちょっと好戦的だけど、何故だかスッとした。
「防音魔法をかけます」
そう言って無詠唱で防音魔法をかけた。
今まで話した事も無かったけれど、魔法の腕は一流のようだ。
「ロージー・ブルックス、此方に」
アンバーに促され部屋の奥の天蓋付寝台に近寄ると、其処には痩せこけたヴィー・パターソン男爵令嬢が上体を起こし座っていた。
『えっ?どういう事?』




