54.没落を止めるには
「ねぇ!このままだったら私達没落してしまうのよ!どうにかしてあの娘を手に入れないと」
「マーフィー伯爵は死んだんだ。
あの娘を手にしたところでもう使い道は無い!
そもそも、お前とマチルダが好き勝手に財産を食いつぶしたのが原因だろう!
さっさとマチルダを何処かの金持ちにでも売ってどうにかしろ!」
王都の中心街に程近い貴族街にあるブルックス侯爵邸。
侯爵夫人と次女マチルダの度を越した散財により、侯爵家は没落寸前まで疲弊していた。
「なんで私が売られなきゃならないのよ!
売るならロージーがいるでしょ!
あの娘を売ればいいのよ!」
マチルダが激高する。
「…お母様とあなたが作った借金なんだから、責任は取って貰います」
冷たく無機質な声で長女のアンバーが呟く。
「何よ!何よ!
自分は魔法院で将来を約束されているからって!
家族の危機なのに!」
マチルダの金切り声が響く。
「…家族?
私はお母様やあなたを家族だと思った事などないけど」
「な、何ですって?
お腹を痛めて産んであげた私に向かってよくもそんな事が言えるわね?」
「…産んだだけですよね。
私の事も、ロージーの事も」
「なっ、何を言うの!」
「兎に角、お母様とマチルダが作った借金は二人に返していただきます。
宜しいですね、お父様」
「勿論だ」
ブルックス侯爵が頷くと、アンバーは手元の書類を見せて説明を始めた。
「マチルダは、ドローワ男爵に嫁いで貰います。
男爵は奥様を亡くされ再婚となりますが、支度金として抵当に入っているこの邸を返して貰えます」
「ひっ!ドローワ男爵!
何言ってるの?あの人幾つだと思ってるのよ。
70過ぎで孫までいるのよ?
あり得ない!絶対イヤ!
お母様助けて!」
ブルックス侯爵夫人が加勢しようとするが、アンバーは手を上げて無言の制止をしたので、侯爵夫人は気迫負けし口を挟めない。
万が一にもアンバーの機嫌を損ねて強力な魔法を
放たれたら命が脅かされるからだ。
「あなたたちが長年ドレスや宝飾品を買い漁り作った借金は巡り巡ってドローワ男爵が債権者となっていたのです。
でも、男爵によくお話を聞いたところ、マチルダ、どうもあなたの事を社交界で度々見かけてその馬鹿さ加減を可愛いと思ってくださったらしいわ。
それで我が家の債務を肩代わりされたそうよ。
優しい方で良かったじゃない、マチルダ」
「それって借金のカタに売られるって事でしょ!」
「あら、馬鹿の割によく理解したわね」
アンバーは無表情なまま言い放つ。
「あ、アンバー、これではマチルダがあまりにも可哀想だわ」
ブルックス侯爵夫人が搾り出すように抗議する。
「それなら、代わりにお母様が嫁がれますか?」
「な、何を言うの!
私はお父様と結婚しているのよ!」
アンバーは面倒くさそうにブルックス侯爵に尋ねた。
「お父様、ブルックス侯爵家を守るためですから、離婚もやむを得ないと考えますが、如何ですか」
「借金が棒引きになるなら構わない。
由緒正しい魔法の名門ブルックス侯爵家を潰すわけにはいかない。
そもそも私やアンバーに隠れてよくもこんなに借金を重ねたものだ。
お前たちのドレスや宝飾品は全て売りに出し、借金の返済に使うからな」
侯爵夫人はがっくりと膝から崩れ落ちた。
「先方はマチルダを望んでいますから、それで宜しいですね、お母様」
侯爵夫人は力無く頷く。
「い、イヤよーーー!
お母様の裏切り者!
何で私だけこんな目に!」
喚き出したマチルダを横目で見たアンバーはすっと右手を上げると「拘束」と呟く。
すると、マチルダは声を発する事も身動きする事も出来なくなった。
更にアンバーは右手から黒い靄をマチルダに向かって放ち、命じた。
「マチルダ、あなたはブルックス侯爵家の為にドローワ男爵に嫁ぎなさい」
「は、い」
人形の様な無機質な顔でマチルダが頷くと、侯爵夫人が啜り泣き始める。
「ほう、また一段と闇魔法の腕を上げたな、アンバー」
感心したようにブルックス侯爵が呟く。
「私の闇魔法は我が家の極秘事項です。
魔法院すら知りません。
わかっていますね、お母様」
ブルックス侯爵夫人は啜り泣きながら小さく頷いた。
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