43.心の呟き
叔母さまに背中を押され、わたしはエリオットと向き合う覚悟を決めた。
今日エリオットはまだ邸内にいるはず。
取り敢えずエリオットの私室の扉の前に立つけれど、ノックする勇気が湧いてこない。
こら、ロージー。
覚悟を決めたでしょう!
エリオットの気持ちをちゃんと聞かなければ、わたしは前に進めない。
仮令、ただの妹としか思われていなくとも。
トントン、と小さく扉をノックすると、さっと扉が開きエリオットが顔を出す。
「ロージー、どうした。
珍しいな、君が俺の部屋に来るなんて」
珍しいも何も初めてです。
婚約が擬装ではなかったとしても、未婚の貴族階級の男女が部屋に2人きりはゆゆしき事態。
「あの、良かったら少し時間をいただけませんか。お話ししたい事があって」
いつもの砕けた口調では無い事に、エリオットの眉がピクリと上がる。
「随分、他人行儀だな。
いいぞ、中に入って」
そう言って、エリオットはわたしの腕を取ると、部屋の中に引っ張り込んだ。
バタン、と扉が閉まる。
「え、エリオット。
扉閉まっちゃった。
開けておかないと」
「何故?
婚約者なのだから構わないさ」
「いや、構う!構う」
ジタバタするわたしの腕を取り、そっと長椅子に座らせ、自分も隣に座る。
私室なので小さめの卓と長椅子があり、向かい合わせの応接セットみたいな物は置いていない。
誰かと会ったり話したりする客間や応接室がこの邸には幾らでもあるから、私室はあくまで独りでくつろぐ場所だからだ。
勿論、夫婦なら夫婦の寝室と夫婦でくつろぐ部屋に向かい合わせの応接セットがあるけれど、まだ独りのうちは部屋に使用人以外が入る事もないためこのような造りになっている。
「あ、あのエリオット?
出来たら応接室とか場所を移さない?」
エリオットは満面の笑みで否定する。
「どうして?」
全く以て嘘くさい微笑みだ。
「だから、結婚した訳でもないのにふたりきりは拙いよ、拙いです」
「婚約者なのに?」
「婚約者って。
便宜上婚約しただけなんでしょう」
段々と語尾が小さくなってしまう。
わかっていても認めたくないんだなぁ。
未練がましいな、わたし。
「エリオットがわたしを守ってくれる為に、皆んなと相談して婚約者の振りをしてくれた事にはすごく感謝しています。
でも、もしエリオットに他の大切な方がいるのならばわたしに遠慮する事なく、今すぐにその方と幸せになって欲しいの」
ぎゅっと手を握り合わせ震えを抑えながら伝える。
「………」
長い沈黙が続いて耐えきれなくなったわたしはそっとエリオットを覗き見ると、眉間に皺を寄せ怖い顔をしていた。
「ごめんなさい」
わたしのせいで好きな人と離れたりして欲しくない。
「何故、謝る」
「だって、エリオット、本当はギッテンス公爵令嬢とお付き合いしていたんでしょう?
今でも、す、好きだよね。
もし、思い合っているなら、ギルだって考えてくれるかもしれないし」
「ロージー!」
エリオットはわたしの肩に手を置き、射抜く様に鋭い目をした。
「ロージー、はっきり言っておく。
俺はギッテンス公爵令嬢に特別な感情を抱いていないし、抱いた事も無い」
「えっ」
だってあんなに親しげであんな笑顔で。
「よくパートナーを組んでいたのは都合が良かったからだ」
「都合?」
「兎も角、ロージー、俺が特別な感情を抱いているのは唯一人君だけだから」
「へっ?」
「確かにいろいろと事情があり、俺が仮婚約者となったのは事実だが。
俺は渡りに船だと思っていたし、この機に乗じてさっさと既成事実を作り上げ本物の恋人になったと思っていたのだが」
「ほ、ほんもの」
「鈍いロージーには通じていなかったようでがっかりだ」
エリオットは態とらしく溜息を吐く。
「に、鈍いって、そんな事ないもの!」
「俺があれだけアピールしてあれだけ甘い雰囲気になっていてもまだ勘違いしているだろうが」
アピール?甘い雰囲気?
じわじわといろいろ思い出して顔が桜色になる。
「ロージーを妹と思った事などない。
初めて会った時から愛しいと思っていた」
プシューと頭から湯気が出そう。
「鈍いロージーにはハッキリ態度で示していく事にした」
そう言ってエリオットはわたしの顎をくいっと上げ唇を重ねた。
少し固い唇………
あれ、心臓の鼓動がやけに響く。
ドキドキドキドキ…………
そしてわたしは興奮のあまり意識を手放した。
『あいつらの気持ちも全く気付いていないな。
気の毒に』
エリオットの心の呟きは勿論聞こえなかった。
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