40.遭遇
王宮に到着し王太子殿下との謁見の為、薔薇の間へと向かう。
前回の謁見は王太子殿下としてだったけれど、今回はどちらかと言うと幼馴染のギルとの再会なので、少しドキドキする。
さっきはシクシクしたけど、今度はドキドキ。
最近災難続きで心臓弱ったわけじゃない事を祈りながら、前を歩くスタンリーとデュランの後ろ姿を見つめ続ける。
右隣を歩くエリオットの方は見ないようにして闇雲に歩くのは、何だか気不味いから。
エリオットだって恋愛のひとつやふたつ、経験していて当たり前。
思えば女嫌いだったエリオットが恋愛だなんて凄い進歩だ。
凄い進歩だと思うのに、何故か涙が溢れそうになり、気付かれないように急いで俯くと、スーっと涙が溢れ落ちた。
どうしてこんなに動揺しているんだろう。
ぼんやり考えていると、前方から声が掛かった。
「エリオット様、お久しぶりです」
思わず顔を上げると、見た事もないほど凛として美しいブルネットの令嬢が佇んでいた。
この人だ。
美貌の令嬢、クレア・ギッテンス公爵令嬢!
まさか、今日の今日ここで鉢合わせするなんて。
「ギッテンス公爵令嬢、久しぶりです」
エリオットの挨拶に美貌の令嬢はクスリと笑い優しく微笑んだ。
「もうクレアと呼んでくださらないのは仕方ありませんね」
「貴女は今では王太子殿下の婚約者ですから」
「あら、それでもお友だちなのは変わりませんでしょう?」
繰り広げられる2人の会話を隣で些か居心地悪く聞いているわたしは壁にでもなった気分だ。
思わず遙か先を歩くスタンリーたちを目で追い、ジリジリと少しずつ足を動かしこの場から離れようと試みるけど、エリオットに気付かれた。
「ギッテンス公爵令嬢、こちらは私の婚約者
ロージー・ブルックス侯爵令嬢です。
ロージー、この方が殿下の婚約者、クレア・ギッテンス公爵令嬢だ」
逃げだそうとしていた上に、泣き顔のわたしはさぞかしみっともなく見えるに違いない。
ギッテンス公爵令嬢とは月とスッポンだ。
ギッテンス公爵令嬢はわたしの泣き顔に気付いているだろうに、笑顔で優しく挨拶してくれる。
「初めまして、ブルックス侯爵令嬢。
お会い出来て嬉しいですわ」
完璧なカーテシーに思わず見惚れてしまう。
「あの、初めまして、ギッテンス公爵令嬢」
にっこり微笑むギッテンス公爵令嬢は女神の様に美しかった。
そして気付いてしまう。
マチルダやヒロインのヴィーがエリオットに言い寄っても平気だったのは、品なく騒ぐ彼女たちをエリオットが好きになるとはおもえなかったからだと。
そして、この女神みたいな人とエリオットは何てお似合いなんだろう。
でも今はギルの婚約者。
さっきはあんな風に言ってはいたけれど、やはりギッテンス公爵令嬢にエリオットは優しい。
わたしに軽口を叩く時とは違い、彼女を尊重して話している。
「そうですか。
妃教育の帰りなのですね」
「はい。エリオット様はギルバート様と、ですわね」
「ええ」
それは正に何処かで見たあの2人の風景。
見ているのは余りに辛い。
そうするとギッテンス公爵令嬢は所在ないわたしに気付き、話を切り上げてくれた。
「ご婚約者様をお待たせしてしまいましたわね。それではご機嫌よう」
颯爽と去って行く姿も美しかった。
漠然とエリオットはあの人の事が好きなんじゃないかなと感じた。
御令嬢とあれほど会話しているのは初めて見たし、何より優しかった。
それでもあの人はギルの婚約者だから。
それでわたしと擬装婚約してくれたのかもしれない。
考えれば考えるほど涙が溢れ、ひたすら俯いて薔薇の間まで歩いた。
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