31.獣道
馬車が速度を緩め始め、目的地ラーズの廃屋近くに着いたのだと気付く。
「そろそろだ。
ロージー、君はまだ聖魔法の封印を解除していないから危険だ。
俺から決して離れるなよ」
「うん」
「封印の解除は王都に戻ってからになる。
シモンズ子爵夫人を連絡鳥で呼んだからね」
連絡鳥は王家のみが使える魔法の鳥での伝達方法だ。
つまり緊急事態だと言う事。
そりゃ、聖魔法使いの聖女爆誕だからなぁ。
絶対柄じゃない。
どう考えても、わけもわからず殺されるモブキャラなのに。
いや、殺されませんよ?
そんなに何度も殺されてたまるか、だけど、
聖魔法だの、聖女だの、ちょっと勘弁して欲しい。
いや、今はそんな事よりルーちゃんたちを助けなくては。
些事は後から考える!
ガタンと音がしてデュランが馬車に乗り込んで来た。
「膠着状態だ。
廃屋は取り囲んでいるが、破落戸どもが子供たちを人質に立て篭っている」
未だ解決していなかった。
「そう簡単にはいかなかったか」
「辺りを捜索中に張り付き草に足をとられ転んだ騎士が居て廃屋内にいた破落戸に気付かれた。
廃屋へ行こうにも張り付き草が防壁となり結構苦戦を強いられている」
張り付き草は茎にも結構粘着性があるから、群生していたら足もとられるし、小さな棘が痛いだろう。
「犯人一味は廃屋まで独自の獣道を造っていたようでようやく発見したから、辺りを包囲出来た。
ただ、中に破落戸が何人居るかはまだわからない」
廃屋と言っても、朽ちた広い屋敷である。
わたしは実物を見た事が無かったが、スタンリーやデュランに昔詳しく聞かされた事があったので何となくわかる。
「昔此処へ来た時には張り付き草だけ採取して廃屋には近づかなかったからな。近づくだけでこんなにやっかいだと思わなかった」
「つまり獣道を知らなければ廃屋から抜け出すのもやっかいと言う事だな」
「それでは突入といくか」
エリオットの声を合図に馬車を降りると、朝ぼらけに広大な張り付き草の草原が浮かび上がった。
「綺麗」
こんな緊迫した場面で何とも的外れな呟きではあるが、それほど未だ暗さが残る中、朝日でピンク色に染まった張り付き草の原っぱは幻想的だった。
漂う海からの風も心地よい。
「草の中に入ったらそんな気持ちは微塵も無くなるよ」
デュランが苦笑いする。
ピンク色の大草原の彼方に朽ちた屋敷が見える。
思ったより大きい。
「彼処にルーちゃんたちが」
やがてわたしたちはデュランを先頭に獣道を進み始めた。
獣道とはいえ、体にチクチク刺さる張り付き草に煩わされながら草原を歩いて行く。
普段使いのドレスとはいえ、ドレスはドレス。
あちこち引っかかるのも煩わしい。
後ろを歩くエリオットが長い腕でかなりガードしてくれているが、それでも張り付き草が体中についてしまう。
「そう言えば、さっきデュランの服や髪には張り付き草付いていなかったけど、なんで?」
まだ廃屋まで距離があるとは言え一応小声で前を歩くデュランに聞いてみる。
「氷魔法で落とした」
「えっ!自分に氷魔法をかけたの?」
「自分自身には当たらないように髪や服だけ狙ったの」
「す、凄い」
思わず言ってしまうと、デュランは立ち止まって振り返ってしまう。
「凄い?今凄いって言ったのか?
おい、エリオット、ロージーが俺の事、凄いって。カッコいいって。もうこのまま死んでもいい」
デュラン劇場が始まってしまった。
「うんうん、デュランは凄いよ。
だから、ルーちゃんたちもちゃっちゃと助けちゃおうね」
「そうだな、よしロージー、よく見てろよ。
俺の勇姿を!」
デュランは張り切って進み始めた。
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