21.悪事
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「いつからそこに」
3人はゆっくりと近くへ寄って来た。
スタンリーが大きな体をすっと屈めて赤毛の男の子に話しかけた。
「こんばんは。俺はスタンリー、野原と山がいっぱいの故郷からやって来たばかりで、この邸に世話になっているんだ。
この邸の息子のエリオットやそこのロージーは小さい頃からすごく良く知っているんだ。
だから俺にも話を聞かせてくれないか?」
優しい榛色の瞳のスタンリーは、瞳の色の通り優しく、そして実直で誠実な人だ。
だから、老人子供には絶大な人気があるし、動物にも好かれる。
社交界を闊歩する派手な御令嬢には受けないかも知れないけれど、剣の腕前もかなりだし、商会も手広くやって取引相手からの信頼も厚く、その上裕福な子爵家の嫡男という超優良物件だ。
好青年と呼ばれるに相応しい容貌まで揃えていると言うのに未だに婚約者がいないなんて。
解せぬ。
そんな大きなわんこの様なスタンリーに赤毛の男の子も気持ちが弛んだみたいだ。
「い、いもうとがつれていかれたんだ。
ヘルミナがそのロージーのめいれいだって。
どこかのへんたいおやじにうられるって。
たったひとりのいもうとなんだ。
たすけて、おねがい、たす、けて、うっうっ」
最後は嗚咽で聞こえなくなった。
「ロージー、ロージーはヘルミナという女にそんな命令をしたのかい?」
スタンリーの問いにギョッとしたが、男の子に順序立てて説明しようとする意図が理解できたので話を続ける。
「いいえ、そんな命令はしていないわ。
まず、ヘルミナさんに会ったのもあの訪問の一回だけだし。
それにわたしは子どもを売ったりしないわ」
男の子は信じて良いのか渋面で必死に考えている。
「そう言えば君の名前を教えてくれるかな?」
「……ロイ」
「ロイくんか。
いいか、ロイくん。
今から此処にいる俺たちがルーちゃんを探す。
必ず見つけ出すから少しだけ待っていてくれるかい?」
ロイは涙でぐしょぐしょになった顔で頷く。
エリオットはスタンリーの横に屈んで、ロイに何か言うとロイはまた頷き呟いた。
「かならず、みつけて」
ロイくんは孤児院へは帰さず邸で保護することにした。
ウィルとアンナにロイくんの世話を任せ、わたしたちは対応策を練る。
「夜中とはいえ急を要する。
デュランは王太子に伝えて騎士を派遣して貰え」
憲兵は先日の襲撃事件により不穏分子がいる可能性があるのだろう。
「スタンリーは商会の繋がりで連れ去られた女の子の噂が無いか調べて欲しい。
但し、二人ともかなり危険だからうちの私兵と共に行動する事。
決してひとりで行動してはいけない」
スタンリーとデュランが頷く。
「特にロージー、君は絶対に俺から離れるな。わかったな」
信用ないなぁ。
昔、シモンズ領の魔物の森で三銃士と魔物に遭遇して意識を失った事をまだ心配しているみたい。
そうだ、実はその辺の記憶が無いんだよね。
気がつくと、三銃士が涙目でわたしを囲んでいて。
あれからみんな急に剣の稽古に励む様になったっけ。
デュランが騎士になったのも少なからずあの時の影響だと思っている。
「はい」
ここは素直に頷いておかないと、あとが煩そう。
「俺とロージーは孤児院へ行って経緯を確認してこよう」
そこへバタバタと何人もの足音が聞こえ、幾人もの騎士達が整列していた。
黒髪の落ち着いた感じの騎士が一歩前に出る。
「エリオット様、準備が整いました」
「よし、二人ずつ護衛についてくれ」
はい、と言う声で6人の騎士が二人ずつ、スタンリー、デュラン、そしてエリオットとわたしの護衛についた。
ジェンキンス公爵家の騎士団所属の騎士達だ。
邸の敷地の中に騎士団の訓練所、詰所、そして寮もある。
デュランに聞いたところ公爵家の騎士団は精鋭揃いで王宮騎士団と並び人気の騎士団だそう。
エリオットとわたしについてくれるのは、
先程の黒髪の落ち着いた感じの騎士と銀髪の見目麗しい騎士だった。
「ロージー、ジョンとブラッドだ」
黒髪の騎士がジョンさん。
銀髪の騎士がブラッドさん。
「よろしくお願いします」
ふたりに挨拶するとにこりと笑ってくれた。
良かった、優しそう。
「急ぎ孤児院へ向かう。
未だ、先日の襲撃犯達も捕縛していないから、あたりに気を配ってくれ」
ジョンさんとブラッドさんは単騎で、エリオットとわたしは馬車で急ぎ孤児院へ向かう。
何か途轍も無い悪事が蠢いているような気がして薄ら寒くなった。
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