16.粉をかけるヒロイン
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『間違いないわ。
あの現場で見た合図をした女性。
そしてヴィー・パターソン男爵令嬢だわ』
「ウィル、エリオットにお話しした通りでした、と伝えて貰えますか」
ウィルが会釈をして部屋を出て行くのをぼんやり眺めながらそっとため息を吐く。
小説の通りとはいえ、最早わたしは殺されていないどころか、怪我ひとつ負っていない。
このロージー・ブルックスとしての人生がどうなって行くのか、最早五里霧中だ。
実の所、前世の記憶は曖昧だ。
「永遠の星の下に」のストーリーについては
何となく思い出せるのに、前世の家族や友人仕事についても、とんと思い出せない。
ロージーとしての記憶に消されてしまったのだろうか。
ごちゃごちゃと纏まらない考えに振り回されていると、客間にエリオットが入って来た。
と言ってもこの覗き穴からだと後ろ姿しか見えない。
「お待たせしました。
私に話したい事があると聞きましたが」
エリオットの氷の様な声がしっかり聞こえる。
この隣部屋凄い。
きちんと来客の様子が正面から確認出来るし。ジェンキンス公爵家恐ろしい。
「エリオット様ですね。
ああ、何て美しい!
お会いしたかったです」
いきなりの追っかけ令嬢宣言でエリオットから氷点下の風が吹いて来るような気がする。
「………」
あーあ、エリオット完全にダンマリ状態になってる。
これ、相当機嫌悪いよね。
「私はヴィー、パターソン男爵の娘ですの。
お話しするのは初めてですけど、何だか初めてとは思えないわ、ウフフフ」
ヴィーがハイテンションで話しかけるけど、エリオットの纏う空気が更に低下して凍結しそうなんですが。
「初めてと言う事はこれからがあると言う事ですわね。
是非親しくしていただきたいわ〜」
小説とは明らかに別人だ。
義母と義妹に虐め抜かれたヴィーは悲壮感が漂い暗く卑屈な部分も持ち合わせていた。
それでも必死に幸せになろうと頑張る姿に読者は共感したのだから。
けれど目の前のヴィーはアッケラカンと
エリオットに粉をかけている。
解せぬ。
「…それで用件とは」
痺れを切らしたのかエリオットがやっと口を開く。
「ああ、先日の襲撃事件をたまたま目撃しましたの。
それでエリオット様にご報告申し上げた方が良いだろうと両親にも言われまして」
両親に言われた?
父親は無視、義母は虐待のあの男爵家で?
設定が根本から崩れている。
もう、全く違う話としてこの転生した人生は進んでいるのかも知れない。
「たまたま?あんな夜更けにですか?
周りには馬車はみかけなかったが」
貴族の令嬢があんな時間にフラフラと歩き回っているのは不審でしかない。
「あ、あら、そんな夜更けだったかしら。
ええと、たまたまお友達の邸に招かれまして、えっと、帰りの馬車に酔いまして、そうそう、それで空気を吸いに外に出て少し歩いていたのですわ」
お粗末な言い訳にエリオットは微動だにしない。
「それで馬車が暴漢どもに襲撃されるところに遭遇しましたの。
ビックリしましたわ〜。
すごく怖かったですぅ」
盛んに媚びているが、エリオットは相変わらず微動だにしない。
「そうそう、それでどなたか亡くなったのでしょう?
私は怖くてすぐ馬車に引き返してしまったので、噂で聞いただけなのですが」
亡くなった、と言う言葉にエリオットの眉尻がピクリと上がる。
原作では私は殺されるけど、回避してこの通りピンピンしているし、襲撃事件の詳細は箝口令が敷かれている。
犯人一味が牢から逃げた件も勿論伏されている。
エリオットが少し反応した事に気を良くしたのか、ヴィーは饒舌にまくしたてる。
「聞いたところによると、幼馴染の令嬢だそうですね。
本当にお気の毒ですわぁ。
お辛いでしょうね。
そうそう、私がお話し相手になりますわ。
それがいいですわ、お慰めいたしますわぁ」
1ミリも気の毒と思っていない口調で言われてもね。
それより原作のまま、わたしは死んだと思い込んでいるようだ。
ヴィーも転生者なの?
「貴女は彼女が殺されるところを目撃したのですか?」
「い、いえ、怖くなってすぐに逃げました。
だって、私、か弱いし」
「他に何か覚えている事はありますか。
一味の人相や何か特徴とか」
「い、いえ、暗かったので。
で、でも犯人一味を捕らるのでしたら、ご協力致しますわ。
一緒に行動すれば思い出す事も有るかも知れませんでしょ?」
どこまでも押しの強いヴィーである。
「いや、結構です。
今お話しいただいた内容で十分です。
これ以上、ご迷惑をお掛けするわけにはいきませんので。
本日はわざわざありがとうございました」
ぶった斬ったよ、エリオットさん。
ヴィーはまだご協力しますだの言っているが、ウィルがちゃっちゃと退室を促す。
ヴィーは渋々退室しながら最後に言った。
「いつでもご連絡くださいね、エリオット様」
お読みいただきありがとうございます。




