15.ヴィー・パターソン男爵令嬢
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その日の夜、エリオットと食後のお茶を楽しんでいたところに侍従のウィルが先触れの無い来客を告げた。
「先触れも無いとは、知己の方か?」
「いえ、それがエリオット様とは一面識も無い御令嬢でして本来ならそのままお帰り頂くのですが、御令嬢がおっしゃるに先日の馬車の事件を目撃されたと」
「何だと」
馬車襲撃事件については未だ箝口令が敷かれており極小数の関係者しか知り得ない情報になっている。
「そう言う事なら会ってみよう。
あの客間に通してくれ」
ウィルは少し頭を下げてから部屋から出て行った。
これはやはりヴィー・パターソン男爵令嬢の来訪に違いない。
このままエリオットがヴィーに会ってしまうと、小説の様に全面的にヴィーを信用してしまうかもしれない。
今や敵か味方かわからないヴィー。
そもそもあの襲撃場所にいたのが本当にヴィーだったのかも確証が無い。
こうなったらまた予知夢という事にしてエリオットに予備知識を入れるしか無いか。
「あ、あのエリオット。
その方、おそらくヴィー・パターソン男爵令嬢ではないかと」
「ロージーの知り合いか?」
「いえ、あの、実はまた夢を見て」
夢と言う言葉にエリオットはハッとしたようでわたしをじっと見つめてくる。
いや、顔面偏差値半端ないので辛いです。
「どんな夢だった?」
「ヴィー・パターソン男爵令嬢が襲撃場所に居て事件を目撃したとエリオットを訪ねてくるの。
あんな夜更けにあの場にいた理由を、義母と義妹に虐められていて娼館に売られそうになったから屋敷から逃げ出して来た、と話すと思うの」
「それが本当ならあの場に居合わせた、と言う事だな…。
それはまさか、あの合図をした女と言う事か?」
エリオットは察しが良い。
「合図をした時顔が見えて、わたしにはパターソン男爵令嬢に見えた。
でも周りは暗かったし一瞬の事だったから、確信は持てない。
ただ、あそこに居た女はあの時襲撃者たちに合図していたから、敵方かもしれないの」
そう言った途端に怖くなる。
もしヴィーが犯人の一味なら、何故エリオットに会いに来たのか。
顔を見られていないと思った?
もしかしたら、わたしは殺されたと思っている?
「もしあの女と男爵令嬢が同一人物なら、敵のスパイと言う可能性もあるな」
エリオットは難しい顔をしてもイケメンオーラがはち切れていて凄い。
「顔を見られていないと思っている可能性も」
「それは大いにあり得るな」
「あと、わたしが殺されたと思っている可能性もある」
「たしかに孤児院以外引きこもっていたが、刺客共は一旦捕縛されたとはいえ結局まんまと逃亡したのだから、ロージーが無事なのは一味ならわかっている筈だろう。
何かの理由で一味と連絡が取れていないなら別だが」
「連絡が取れない…」
ぼんやり考えるわたしを尻目にエリオットは優雅に立ち上がった。
「取り敢えず俺ひとりで会ってみよう。
ロージーはウィルに客間の隣部屋に連れて行って貰え」
「でも顔を確認しないと」
「隣部屋には客が確認出来るよう覗き穴がある」
「の、のぞきあな」
流石天下のジェンキンス公爵家。
わたしは戻って来たウィルに案内され、客間の隣部屋に入った。
覗き穴と言うから狭い空間かと思いきや、優雅で広い客間だった。
「ロージー様、こちらからご覧になってください」
ウィルは慣れた手付きで壁に掛かっていた美しい田園風景の絵画を横にずらし、覗き穴を指し示す。
少し戸惑っていると、ウィルはにっこり微笑んで言った。
「あちらからはわからないように設計されておりますのでご安心ください」
恐る恐る覗き穴に近付き、そっと覗いてみる。
正面の長椅子にイライラと落ち着きなく座っていたのは、そう、「永遠の星の下に」のヒロインであるヴィー・パターソン男爵令嬢だった。
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