純真無垢な告白
息を付く間もないほど、切羽詰まった様子でジルダは彼女の体を押し倒した。何度もこの手で愛した体だ。少しずつ丸みを帯び、女らしくなっていくロザリーの体は、少し触れるだけで艶めかしく赤みが差す。柔らかな肌の感触をその手で堪能しながら、ジルダは目眩を覚えていた。
触れれば触れるほど、その若く瑞々しい体は快楽に震えた。もっと声が聞きたい。もっと夢中になってほしい。この俺に、身も心も堕ちて欲しい。その一心で、ジルダはひたすらに愛撫を続けていた。その様はまるで、下僕が主に愛を乞うようだった。
「あ…あ、ジルダ…ッ…!」
「もっと…もっと、呼んでください。俺の名を。その可愛らしい声が枯れるまで、啼かせてさしあげますよ」
「や、あ…も、…無理…だ…」
「ああ…本当に可愛らしくて、厭らしい声ですね。頭の中が蕩けそうだ」
「なっ…そん、な…あぁッ…」
迫りくる快感の波に、仰け反り露わになる白い喉元。ジルダはたまらずそれに食らいつく。そして唇を滑らせ、彼女の嬌声をそのまま塞ぎ込めた。舌と舌を絡ませ、口内を愛撫する。必死に手を伸ばして己の腕にしがみ付くロザリーが、ひどく愛しく思えて仕方なかった。
「あ、ジルダ…」
自分を甚振るその手の感触は、激しさと共に優しいもちゃんと感じられる。けれど、その初めての感覚に、快楽と同時に怖さも感じていた。無論、あの男とは違うと頭ではわかっている。けれど、無意識に蘇るおぞましい感覚に、恐ろしさをうち消すことができずに体は硬直していた。それに気付いたジルダはどうにか彼女の緊張を解こうと、優しげに微笑みながら額にキスを落とした。
「体が熱い。そんなに気持ち良いですか?」
「なっ…!」
睨むように見上げる、濡れた瞳。そのエメラルドはこんな時でさえ、高貴な輝きを放っている。そうだ。その目だ。気が狂いそうなほどに欲した、その眼差し。気の強さが滲み出ているその目を見下ろしながら、こうして組み敷くことをどれほど夢見ただろうか。ジルダは恍惚の表情を浮かべながら、彼女の体を愛撫した。
「覚悟はできてますね?」
「え…、待っ…ちょっ、…ジルダ…!」
「待ちましたよ。十分なくらいに。教えてあげましょうか?俺がどれほどこの日を待ち望んだか」
「や、あ…ダメ、…ッ…」
「頭の中で、何度も何度もあなたを犯しました。泣き喚き、俺の名を呼びながら悦ぶあなたをどれほど思い浮かべたか。だから、もう逃したくはない」
意地悪に唇の端を釣り上げながら、ほくそ笑む。どこまでも強欲で性悪な男は、もう遠慮することなくその手で彼女を甚振っていた。
可哀そうに。こんなに涙をいっぱい溜めて。けれど、やめられない。やめてあげられない。半開きの唇から漏れ出たあられもない声で自分の名を呼ばれると、たまらなく心地良くて…。もう、俺に堕ちている――そう確信したジルダは、自分の着衣を脱ぎ捨てた。
あなたの体も、その心も、全部俺のものだ。誰にもやらない。誰に咎められても、神に背いたとしても。全て奪い、俺のものにする。
……そう、抱けば全部手に入ると、思い込んでいた。どんなに手を伸ばしても届かない、美しく高貴な花。無理矢理に手折れば、きっと全部手に入ると思っていた。だから…
「欲しい…。おまえが、欲しい。ジルダ…おまえが、好きだ。たまらなく好きだ…」
涙を流しながら、まるで訴えるように口走るロザリー。そんな彼女の純真無垢な告白を目の当たりにして、一瞬躊躇した。
どうしてだろう。なぜ、この胸はこんなにも痛むのだろうか。このままこの方の全てを奪い、我がものにしてしまえばいい。それが自分の望みだ。ずっと望んでたことのはずだ。
けれど、できない。心が痛むのだ。誰よりも愛する人に、“好きだ”と言われたからこそ。こんな自分でも一人の人間だと認めて、愛してくれているのだとわかるからこそ。このままでは、何も言わないままでは、心から純粋に自分を思ってくれている人を裏切っていることに他ならないと思ったのだ。
「ジルダ…?」
心配げに伸びてきた手が、遠慮がちに頬を撫でる。どこまでも優しい手の感触に、なぜだか目頭が熱くなった。
「ロザリー様…」
全部明かせば、わかってくれるだろうか。本当の自分を、理解してくれるだろうか。それでも見捨てないでいてくれるだろうか。
淡い期待と不安にこの心は混乱していた。けれど、見下ろせばそこにある、愛しい人の顔。澄んだエメラルドの瞳は、そんな自分の葛藤さえすでに見抜いているかのように、穏やかな優しさを宿していた。
「ジルダ。私は怖くなどない。おまえが真実、何者であろうとも。おまえを失うことの方が、よほど怖いんだから…」
「ロザリー様、俺は…」
「おまえは私の下僕。永遠に、私のもの。他の誰のものでもない。それだけは明らかな真実だ」
強さと美しさを秘めた瞳は、まるで自分の心をも支配しているように思えた。ああ…そうだ。俺は、この方のもの。どんなに手に入れたくても、奪いたくても。そんな欲望は意味を為さない。最初から俺の全ては、あなたのものだったのだから。そう思うと、不思議と吹っ切れた。手に入れる以前に、俺はこの方に全てを支配されていたのだから…。
「ロザリー様」
全部知ってほしかった。この世で唯一、あなたにだけ。この血塗られた自分の運命の全てを、知っていてほしかった。永遠の忠誠を捧げた、あなたにだけは。
「あなたに知っておいてほしいことがあるんです」
ロザリーはビクリと体を震わせた。
ああ…とうとう、この時が来たのだ。ずっと気がかりだった。心配だった。いつものポーカーフェイスの下に、どんな顔を隠し持っているのか。いつだって感情ひとつ読み取れないこの男の抱えるものが、いったい何なのか。心の奥底に隠し持っている闇に、気付かないわけない。本当言うと怖いし、まだ覚悟なんてできていないけれど。それでも、今しかない気がした。私にとって、ジルダは必要不可欠な存在。全てわかってあげられるのは、自分しかいない。全部受け入れてあげられるのは、自分しかいない。そんな気がしたんだ。
「聞かせて、ジルダ。おまえの全てを」
身を整え、視線を落としたジルダの表情が、少年のように見えたのは気のせいだろうか。まだ幼く、あどけなく、どこか危うくて脆い。子供のような顔で話し始めたジルダ。その美しい横顔はどこか儚げで。なぜかこの時、ジルダがそのままどこかに消えていなくなってしまうような不安に駆られたんだ…。




