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5話 運命の魔導書を手に入れる

o(・x・)/

はじまり、はじまり

仕事を終えたヨナは、いつもより軽い足取りで街を歩いていた。


鞄の中には今日もらった給料。

思わず何度も鞄を叩いて確認してしまう。


「ある」もう一度叩く。「うん、ある」


誰に盗まれたわけでもないのに、嬉しくて仕方がない。


「今日は何食べようかなぁ」

頭の中は夕飯のことでいっぱいだった。


「ソーセージもいいないや、たまにはローストビーフも…でもステーキも捨てがたい」


考えれば考えるほど、お腹が鳴る。


「よし!」ヨナは拳を握った。

「今日は豪遊する!」給料日くらい贅沢したっていい。


毎日パンばかり食べているのだ。

今日くらいは肉を食べても罰は当たらない。


そんなことを考えながら歩いていると、いつもとは違う路地へ目が向いた。


露店が並んでいる。

魔導具を売る店。

古着屋。

アクセサリー。

中古の魔導書。

普段なら素通りする場所だった。


「そういえば、あんまり見たことなかったな」

今日は時間にも、お金にも少し余裕がある。


「少しだけ寄ってみよう」ヨナは露店街へ足を踏み入れた。


店先には見たことのない品物がずらりと並んでいる。

古びた杖。

壊れた魔導時計。

光る石。

何に使うかわからない魔導具。


「面白いなぁ」


ヨナは子どものように目を輝かせながら見て回る。


その時だった。


一冊の古びた本が目に入る。


表紙は擦り切れ、題名はほとんど読めない。

他の本とは違い、不思議とその一冊だけがヨナの目を引いた。


「?」気になって手を伸ばす。


そっと持ち上げる。

見た目のわりに、ずっしりと重かった。


「変な本だな」何が書いてあるのだろう。


ヨナは表紙を指でなぞりながら、小さく首を傾げた。


「それ、気になるのかい?」

不意に声を掛けられ、ヨナは顔を上げた。


本の持ち主らしい老人が、店の奥からゆっくりと歩いてくる。


白髪交じりの髪に丸眼鏡。

年季の入ったローブを羽織り、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせていた。


「えっと……」ヨナは古びた本を見下ろす。

「何だかわからないんですけど、気になっちゃって」


老人はヨナの顔と本を交互に見た。


少しだけ目を細める。「その本を選ぶ客は珍しい」


「そうなんですか?」


「ああ。他の客は一度手に取っても、すぐ棚へ戻す」


「へぇ」ヨナはもう一度表紙を眺める。


やはり題名は読めない。

それなのに、なぜか手放したくなかった。


「いくらですか?」


老人は少し考え、「10ポンド」と答えた。


「10ポンドですか」


ヨナは財布を開く。

給料袋からお金を取り出し、本と財布を見比べた。


(……肉は厳しいかな)


頭の中でローストビーフが消えた。

続いてステーキも消えた。

最後にソーセージも消えた。


残ったのは、いつものパンだった。


「……」少しだけ悩む。


本当に少しだけ。「買います」


老人は少し驚いたように眉を上げた。

「本当にいいのか?」


「はい」ヨナは笑う。

「なんか縁がある気がするので」


老人はしばらくヨナを見つめていたが、小さく頷いた。


「……そうか」


代金を受け取ると、本を紙袋へ入れて手渡す。

「大事にしなさい」


「はい!」


ヨナは嬉しそうに紙袋を抱えた。

「ありがとうございました!」


元気よく頭を下げ、その場を後にする。


老人は去っていく背中を見送りながら、小さく呟いた。「……変わった子だ」


その声は、人混みの喧騒に紛れて誰にも届かなかった。


一方のヨナは、紙袋を抱えながら上機嫌で歩いていた。「どんな本なんだろう」


そう呟いた直後。


財布の中身を思い出す。


「あ」


立ち止まる。

財布を開く。

残っているお金を数える。

「……」


静かに閉じた。


「よし、パン買いに行こ」

ヨナは何事もなかったように、いつものパン屋へ向かって歩き始めた。


いつものパン屋の扉を開く。

カラン、と小さなベルが鳴った。

「いらっしゃい……あら、ヨナ君」

店の奥から顔を出したのは、いつものおばさんだった。


「こんばんは」


「こんばんは。いつものパンでいいかい?」

「はい!」ヨナは元気よく頷いた。


おばさんは慣れた手つきでパンを袋に入れながら尋ねる。

「まだお給料入らないのかい?」

「いえ、今日が給料日でした!」

「そうなのかい?」

おばさんは少し驚いた顔をする。

「それじゃ今日は少し豪華な夕飯かと思ったよ」

「その予定だったんですけど……」

ヨナの返事は歯切れが悪かった。


おばさんは手を止め、不思議そうに首を傾げる。

「どうしたんだい?」


ヨナは照れくさそうに笑うと、紙袋から古びた本を取り出した。「これ、買っちゃいました」


「本?」

「はい。露店で見つけたんです」


おばさんは本を受け取り、擦り切れた表紙を眺める。

「ずいぶん古いねぇ」

「ですよね」

「魔導書かい?」

「たぶん……だと思います」

「読めるの?」

「まだ開いてないです」

おばさんは苦笑しながら本を返した。

「それで、お肉がお預けになったわけだ」

「そういうことです」

「相変わらず変わった買い物をするねぇ」


ヨナは頭をかいた。

「でも、なんだか気になっちゃって」


「後悔してないのかい?」

「全然!」迷いのない返事だった。


その様子を見て、おばさんは思わず笑う。

「ふふっ。本当にヨナ君らしいね」

「よく言われます」


おばさんはパンの入った袋を差し出した。

「はい、お待たせ」


「ありがとうございます!」

ヨナは代金を払い、パンと魔導書を大事そうに抱える。「また来ます」


「ええ。またおいで」


ヨナは笑顔でパン屋を後にした。


右手には、いつものパン。

左手には、不思議な魔導書。

「今日はパンだけど……」


魔導書を見つめる。

「まあ、いっか」そう呟いて笑う。


この時はまだ、その一冊が自分の人生を大きく変えることなど、夢にも思っていなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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