簀巻き
上泉が手を前に出すと狭いながらも陣形を取りながら兵が進み始めた。敵が飛苦無を投げてきたがいつの間にか何処から出したか木の小さい盾を左手に持っていて飛苦無を防いでいる。そしてその盾を前方にへ回転させながら投げつけた。
敵が飛んできた盾を防ごうとしている間に距離を詰めて斬りかけていく。敵が何人か倒れたがこちらにも犠牲は出ている。
『ダーン、ダーン!』
銃声がして味方が何人か倒れた。地龍が銃を撃ったのだ。そこを辰三の仲間が鉄砲を乱射する。地龍は咄嗟に味方を縦にしたが脇腹を銃弾が掠めた。地龍側には銃が一丁、上泉側には鉄砲が十丁、地龍は人を担いでいる兵とともに逃げ出した。
「逃すな!」
上泉が叫び走り出す。残った敵は必死になって抵抗するが剣の腕に違いがありすぎた。敵兵も鍛えられてはいたが相手が悪かったのだ。ものの五分で逃げた兵以外全滅した。辰三が身元がわからないか調べているがそれを置いて上泉は走り出した。その後を何人かが追いかける。負傷者も出ているがそれどころでは無かった。担がれている者、犠牲者を出してまで持って帰りたい者、安易に想像できる。信平様だ!
敵の逃げ足は早い。忍びの動きだ。だが人を担いでいるハンデと地龍は脇バラを怪我しているのが幸いし上泉は追いつくことができた。飛苦無が飛んでくるが刀で払いのける。銃弾は木の陰で防ぐ。その度に距離が開くがその間に後続の味方が追いついた。そして飛道具が尽きた。
「何者か?」
地龍が苦しそうに話す。怪我の上に全力疾走は歴戦の忍び 地龍といえキツイ。息を整える時間が欲しかった。上泉は剣を構えた。すると兵が一斉に敵に襲いかかった。
「待て!信平を殺すぞ!」
兵の動きが止まる。上泉はやはり信平様かと思ったが、一番小柄な簀巻きをかついでいる男の足を素早く斬りつけた。兵の動きが止まり敵が一瞬だが油断した。微妙な間が発生したそこを狙ったのだ。信平は放り出されるが気にせず慌てる敵の足を続け様に斬る。兵が先回りして囲むように陣形を取る。
「これは参った。降参だ」
と地龍が刀を捨てた。それを見て他の敵兵も刀を捨てた。その瞬間地龍は懐から煙玉を出して地面に投げつけた。黒煙が出て慌てて吸わないようにするが目から涙が出てくる。上泉はそれでも敵の気配を感じ刀を振るったところ何かを弾いた。そして敵の気配が遠のいていく。
少し経つと煙は消えてそこには足を斬られた敵兵と簀巻きが三つだけ残されていた。
「逃げたか。追うよりこっちだな」
上泉は一番小さい簀巻きから解き始める。部下たちは敵兵にとどめをさしていく。上泉は簀巻きを解き終わると跪き、
「内藤修理が家臣、上泉秀胤でございます。主人の命により信平様にお仕え致します」
信平は上泉、そうかと思いながらも
「ふう、酷い目にあった。お前、俺を犠牲にしようとしなかったか?」
「信平様は鍛えておられると伺っております」
動ぜずに即答する上泉を信平は気に入った。そして、
「八上城へ戻る。それまでに事情を聞かせてくれ」
信平はここに上泉が来ている事に実は驚いていた。内藤、秋山、跡部がくる事は聞いてはいたがどうしてこうなったのか?どの道いまの状況で戦陣へ向かう事はできない。簀巻きを解かれた波多野、朽木と共に城へ向かった。
井伊直政はどうなったのだろう?と思いながら。
跡部のところには桃影が来ていた。信平のところへ行く前に挨拶をしたかったのだ。
「内藤、秋山両名は敵に大損害を与えたのちに戦死、私は今後結城信平様へお仕えするよう言われております。跡部様はご自由にとのことで御座いました」
跡部は、そうか先に逝ったかと思いながら
「報告大義であった。信平様をお護りしてくれ。一目お顔を拝顔したかったが叶うまいて。頼む!」
桃影は敵の配置等、細かい情報を伝えた後去っていった。跡部は真田の兵を呼んだ。
「目の前にいるのは福島正則一万八千、元は二万だそうだがここまで戦をしてきたそうだ。そして我らが進んできた後ろの街道をもうじき二万ほどの軍勢が通る。そっちが加藤清正率いる本隊だ。内藤様も秋山様も討ち死にされた。お主らは真田信綱からの預かり物、ここで死ぬ事もなかろう。亀山へ今すぐに戻れば上様と合流できよう」
「亀山には真田昌輝様の兵もおり合流は可能ですが、我らは真田信綱の兵、そしてその真田信綱はここで跡部様をお助けして活躍してこいと命じられました。我が殿は出番がないことを表向きは喜んでおられました。戦はない方がいいと。ですが弟君達のご活躍を耳にすると嬉しそうでもあり悔しそうでもありました。我らはここで跡部様と共に戦います」
跡部は困った。ここにいたら挟み撃ちになってしまうし借り物の兵達が活躍できそうもない。前方には大軍、後方が塞がれては………。無駄死にするためにここにきたわけではないのだ。そうこう考えている時間はなくすぐに結論を出さなければいけない。そこに伝令が届いた。




