包囲
上杉景勝のところに真田幸村と直江兼続が来ていた。
「上杉様、父、武藤喜兵衛からの文を持参いたしました」
幸村が言うと景勝は、
「上様のところへは?」
「先ほど行ってまいりました。上杉様には好きに動いて良いとの事でございます」
上杉は亀山城の前に砦を築き敵を待ち構えている。敵から見ればここを避けて進むこともできるが側面がガラ空きになるので放ってはおけない絶妙な場所だ。上杉のところへも敵の動きや武田旧臣の動きは随時伝わってきている。ここで待っていていいものか考えていたところだった。
「幸村、お主にここを預けよう。兼続も手伝うと良い」
兼続は、
「それはいけません。大将が陣を離れるようでは、それならば私も行きます。幸村、後は任せた」
「なんでそうなるのです。それがしはここに百名しか連れてきていないのですぞ」
景勝は笑いもせず真面目な顔で聞いた。
「お主がここを護るならいかほど必要だ?」
幸村は少し考えてから、
「そうですな、五千もいれば」
「兼続、五千置いていく。ついて参れ」
えっ、なんで。ここ上杉の本陣じゃあないの?なんで俺?
困惑する幸村を置いて上杉は出陣した。
秋山は物見の報告を受けた。新たに三万の敵が目の前の敵に合流するという。この山の街道では兵の展開はし難いが山中も含めて囲まれれば勝ち目はない。
「おつや。これまでのようだ。世話になった。お前は下がれ、上杉のところへ行けば悪いようにはしないだろう」
ここにいて動かなければ囲まれる。引くしかないのだが秋山は引けない。
「殿、私は殿にご一緒します。これだけは譲れません」
「お前は織田の縁者でもある。お市様に顔向けができなくなる」
「死んでもお市に顔をお向けになる?美人は得ですがそんな事を気にしている場合ではありません」
おつやは頑固だった。そして秋山は折れた。そして兵に向かって、
「それぞれに任せる。訓練の成果を見せよ!」
と言い放った。それを聞いた兵は顔を輝かせ桃影を見て頷いてから全員山に中へ駆け込んで行く。飛騨の山城で行った訓練。それはゲリラ戦法だった。1人が3人は殺す、それだけできればいい。単純な作戦だ。桃影は秋山とおつやに一礼をしてから駆け出した。秋山とおつやは別の方向へ走っていく。
「ご武運を!」
おつやの声に右腕を突き上げる秋山だった。
島津のところへも伝令が届いた。全軍をここに集結し亀山へ向かうと。黒田官兵衛も合流したという。島津は焦った。清正がここに到着するまでに成果を出しておかねば格好がつかない。そして兵を秋山がいたところへ向けたがその時にはすでにもぬけの殻だった。
島津のところに清正が合流した。
「島津殿、敵は?」
「消え失せました。念のため先まで物見を生かせましたがなんの気配も残ってはいないと」
「そうか。兵糧は?」
「それが、跡形も無く」
してやられた。何者なのかさえわからない敵にいいようにやられている。山の中で声がする。清正が山の中を進ませていた兵が敵と遭遇したようだ。声はあちこちで起こり始めた。
「加藤殿、これは?」
「窮地に追い込まれた敵がどうするかを考えただけでござる」
「そうか、山の中に潜んだ」
「だが、声の湧き方から言って敵も予想していたようだ。手強い敵だ」
そこに黒田官兵衛が島津に話すように言う。
「八上城の将は武田勝頼の子だ。結城信平、ここにいるのは武田ではないのか?」
島津はそうなのか、と思った。だが清正は、
「勝頼は東北に釘付け、尾張の武田勢は後藤信尹が抑えている。ここには間に合うまい。主だった武将には見張りが付いている」
清正は秀吉からの情報と自分の諜報網を掛け合わせて答えた。武田に味方する者には間違いないのだが。清正は再び井伊直政を連れてこさせた。その間にも戦闘の声は続いている。
「井伊直政、我らが今戦っているのは誰だ?」
直政はあれって思った。そういえば今こいつらは誰と戦っているのだろう?殿は逃げおおせたであろうし、さて?
「武田勢」
「それはわかっておる。将が誰かを聞いておる」
こいつらは苦戦しているのであろうか?上様は動かないだろうし上杉が出てきたか?ならば幸村もいるかもしれん。
「ふむ、それがしは自分の家の事しかわからぬ」
それを聞いて島津がイライラし始めて刀を抜いた。
「使えない奴だ。人質の価値もない」
直政は微動だにしない。それを見て島津は刀をしまった。直政の素振りが気に入ったのだ。命を大事にしない男は阿呆だが命乞いをする男は信用できない。直政は刀を抜いた男が誰だかわからなかったので気にしていないだけだったのだが。それに実際にわからないのです。
「結城信平の策ではないのか?」
「黒田官兵衛殿との戦は我が殿の策であった。それ以外はわからん」
清正は直政を下げさせた。本当に知らないようだ。官兵衛は、
「結城信平は手強い、ならば武田信勝はその上を行くということだ」
と呟き、ハッとした。




