1-2 尾行しよう!
皇族にはそれぞれ専用の館がある。
ここ、アリアーデの館は三階建になっていて、レイたち使用人が暮らしているのは一階だ。
そして、私たちは二階の遊戯室に移動する。
ビリヤードや麻雀卓などが置いてあるこの部屋の壁には、ダーツの的が掛かっている。
レイはダーツの矢を箱から三本出した。
私は腕を組んで見守る。
そして、的から離れた位置で、レイは一本ずつ投げた。
――的の中心に、全てのダーツの矢が刺さっていた。
そんな……バカな。
「嘘だ……。もしや、世界記録保持者か何かか?」
思わず心の声が漏れてしまった。
彼のフォームは無駄なく綺麗で、これはちょっとやそっとじゃ身につかないレベルだ。
私も矢を受け取って投げてみる。
当たりはするけど、さすがにレイほどは無理だ。
勝負はもはや決まったも同然だった。
「では、お約束通り、一週間は館でお過ごしください」
な……。
矢を回収して片付けを始めたレイは、清々しいほどにいつも通りだった。
もう少し勝ち誇ってはどうだろうか!?
それに、なんで今まで実力を隠していたんだ!?
いや、むしろなぜ今になって本気を出してきたか……。
一週間もお出かけできないなんて、回遊魚を水槽に閉じ込める暴挙!!
「わかりました。よーくわかりました!」
私を甘くみるんじゃない!
とうとうこの優秀な執事の裏側を知る時が来たようだな……!
レイの秘密を知るために、いざアマゾンの奥地へ……じゃなくて尾行すべきだね。
人を知ればその心を知れる。
心を知れば、ゲームに勝てる!!
――翌日。
私は朝起きると共に寝室のバルコニーから抜け出して、レイの様子を伺おうと三階から一階へと飛び降りた。
ふわっと魔法で着地する。
階段なんて使っていたら見つかるからね。
するとその直後、裏口からレイが出てきた。
「姫様、侍女が探しております」
バレるの早っ!
いや、さっき起きたばかりなのに探すも何もないでしょ。
身支度すら整えてないよ。
「ちょっと館の周りを散歩するだけだよ……」
靴も履いていないんだけどね。
「……朝食を食べてからにしてください」
ごもっとも。
――朝食後。
レイの後ろを物陰に隠れながら追っていく。
レイは侍女に仕事を振りながら、業者に備品発注をしている。
……普通だ。
時折耳のピアスに手を当てる時以外は普通すぎる。
次にレイは、裏口で人と話し込んでいた。
あれは……お父様の側近だ。
「お披露目会は大成功でしたね。陛下も喜んでおられました。レガリウス卿の選考会も人員が決まりましたので、一週間後に出立いたしますよ」
……一週間?
つまりそれって、ハンスに会わせないために私を館に閉じ込めたってこと?
え、なんで?
私が遠征について行きそうだから?
「そうでしたか。姫様も興味を持たれていましたから、止めるのに一苦労いたしました」
「アリアーデ様は、レガリウス卿のようなお強い方に惹かれそうですよね」
お父様の側近は笑顔でそう言った。
「…………何を、仰っているのですか?」
空気が凍った。
惹かれるって、何に?
「あっ……私は用事があるのを思い出しました……ははは!」
お父様の側近との話が終わったレイは、踵を返した。
急いで隠れる場所を変える。
が、後ろから声をかけられた。
「姫様、そちらは今通ってはいけません」
尾行がバレた!?
「な、何も見てないよ!」
「こちらへ」
レイに手を引かれ、空き部屋に入った。
レイはしきりに外を気にしている。
「どうしたの?」
「いえ、危険人物がおりましたので……」
なんで私の館に危険人物がいるんだよ……。
というか、もしかして尾行バレてなかった?
「姫様。ご用があるならおっしゃって下さい」
……バレてた。
「えっと……得意な魔法教えて欲しいなぁ?」
タダでは転ばないぞ!
ライバルの情報は重要なのだ。
レイは少し間を空けて返事をした。
「……わかりました。」
嫌そうだな……。
やはり私に情報を渡すのは、例え主従関係であっても嫌なのかな……?
それから館の中庭に移動して、早速レイから教えを受ける。
「私は物を強化する魔法が得意です。例えば……」
そう言って、レイは近くにあった子供用スコップを持って魔力を込めた。
スコップがキラキラと光っている。
「これをあの木に刺してみてください」
スコップを渡された私は、恐る恐る木に刺してみた。
「え、やわらかい!!」
まるでプリン……とまではいかないけど、包丁でキャベツを切るぐらいの感覚ではある。
強化魔法すごすぎでは?
「あ、固くなっちゃった」
スコップが抜けなくなってしまった。
しばらくすると魔法が消えるみたいだった。
「この魔法の欠点は、魔力を注ぎ続けないと持続力がないことですね」
私もスコップに魔力を込めてみる。
キラキラと光が溢れたところで、そのまま木から引っこ抜いてみる。
「折れちゃった……」
スコップは抜けずに、木に刺さった部分から柄が折れてしまった。
「スコップの耐久性の問題と魔力を込めすぎたのが原因ですね。物に魔力を込める時は、その物の許容量を見極める必要があります」
「なるほど!!」
なかなかに奥が深そうだ!
それから夕暮れまでずっと魔力を込める練習をしていたら、途中で止められた。
「魔力が枯渇すると命に関わります。今日はそれまでにしましょう」
この世界では、魔力という自分の中にあるリソースが全てだ。魔力が無くなったら、どんな偉大な魔法使いだって動けなくなる。
「うん、わかった」
レイは魔眼で、いつも私の魔力量のギリギリを見極めてくれていた。
魔眼と言えば、たしか……レガリウスの一族が持っているんだっけ。
……あ、ハンスもレガリウスじゃん。
「レイもレガリウスの一族なの?」
「傍系です。血が薄いので、このように……片目だけ遺伝しました」
「いいなぁ……」
オッドアイかっこいいし、魔力が見れたらかなり戦闘で有利を取れそう。
「私は……いえ、なんでもありません」
レイの声色は震えていた。
こう言う時はそっとしておく方がいいよね。
人の事情に立ち入りすぎると友情崩壊するのはオンラインゲームで散々経験してきた。
私は詳しいんだ。
「ハンスを倒したら、レイも元気になるかな……?」
レイを悩ませる原因がハンスなら、強くなればそれでいいんじゃ?
レイをちらっと見ると、固まっていた。
「そう、きましたか……」
レイは顎に指をあてて考えている。
「姫様が、まず私を越えることができるのであれば……」
ふむ?
レイの戦うところ見たことないけど……。
でも、レイを倒せないようじゃ、ハンスには届かないからね!
「じゃあ、レイと戦いたい!」
「では、訓練をいたしましょう」
レイの声色がいつも通りに戻った。
そしてレイは、流れるように懐からナイフを取り出して、こちらに渡してきた。
まさかの近接戦闘!?




