1-1 勝負しよう!
ゲームは好き?
勝負は好き?
私は、人生を賭けていた。
それこそ、生き甲斐だった。
ゲームをしていない時の私は、空っぽだった。
でも、勝負の中にいる時だけは違う。
高揚して、頭が熱に浮かされて、心臓が早くなる。
勝った瞬間だけ、自分がちゃんとここにいると思えた。
生きてるってちゃんと言えた。
――それが、私の全てだった。
だからかな。
転生しても、まだ私は手に入れたいと思っている。
純粋な強さを。
私を焼き尽くす、熱を――。
「今日はアリアーデ様の八歳のお披露目式ですから、ゲームはお控え下さいね」
ドレッサーの上で、浮遊した白い駒が盤上の黒い駒を倒した。
侍女が私の身なりを整えてくれている間に、一人チェスをしていたのがそんなにいけなかっただろうか?
「わ、わたしじゃないよ。妖精さんだよ」
私の両手はガラ空き。魔法でコマを動かしているのだ!
「可愛らしい妖精さんですね」
姿見で全身を見てみると、確かに今の私は妖精かもしれない。
くるくる回ってニコッと微笑んでみた。
私の瞳によく似た赤いドレスと、灰色の髪がふわりと舞う。
うーん、この可愛らしさでゲーム友達は増えるだろうか?
しかし権力で得た友達は、私と血湧き肉躍るような真剣勝負をしてくれるだろうか?
……絶対接待プレイでしょ。
最悪だ。
今すぐ平民落ちしたい。
コンコン。
「式の準備が整いました。こちらへどうぞ」
皇城の控え室にいた私を、執事のレイが呼びに来てくれた。
今日はパパ……もとい皇帝と手を繋いで入場するらしい。
レイからはニコニコして大人しくしていたらすぐに終わると言われていたので、全力でそうする。
身支度を待ってくれていたお父様が私の手を握り、頭を撫でてくれた。
お父様と通路を歩き、扉の前についた。
「アリアーデ。そう緊張せずともよい」
目の前の扉の奥はパーティ会場となっていて、すでにたくさんの貴族が集まっているらしい。
「緊張してません」
「ふむ、そうか……」
ここは毅然とした態度でいかせてもらう!
パパっと終わらせてさっさとゲーム時間を確保せねば。
使用人が扉を開くと、煌びやかな装飾が見えた。
階下には、拍手で迎える大勢の貴族たちが見える。
お父様が片手を挙げたので、私もそれに倣う。
「アリアーデ。お前の力を見せてみろ」
「!?」
そんな演目聞いていないんだが!?
無茶振りすぎでは!?
思わず目を見開いてお父様の顔を見るも、顔を合わせてくれない。
力って何……? みんなとゲームしろってこと?
絶対違うのはわかる。
つまり、私の今できる最高の魔法を見せろって言いたいんでしょ?
攻撃魔法は危ないし、かといって地味なのは舐められる。
だったら……。
挙げた手をそのまま口の前で皿にして、息を吹く。
創造魔法で作った複数の小花が、風魔法によって貴族達の頭上へと降り注ぐように調整しながら飛ばしてやった。
しかも光魔法でキラキラの演出付きだ。
ふん。どうだ、これで満足か?
三つの魔法の同時行使と、可愛らしさをミックスした、この場に相応しい魔法だ。
隣のお父様を見上げると、うんうんと満面の笑みで私の手を引いて階段を降り出した。
「そのお歳で三つの魔法を!?」
「見て! このお花の再現度、本物と遜色ないわ!」
「聖女様だ……!」
貴族達がざわざわと騒ぎ出す。
階下に降りた時、お父様はステッキで床をドンと叩いた。
一瞬にして静寂が訪れる。
「これが我が娘、アリアーデ・クランツェフト第二皇女である」
「「おおおお!!」」
会場が沸く。
私はジト目でしらける。
お父様、それは過剰演出だ。
目立ってしまった私は、終了時間を大幅に越えて、お昼過ぎに解放されたのだった……。
「っち」
「姫様」
自然に出てしまった舌打ちを、レイに嗜められる。
お披露目会から帰る途中の私は、少し不機嫌だった。
……あんなに大人達がいたのに、ゲームすら一緒にできなかった。
何という消化不良だろうか。
一人一人好きなゲームを訪ねて回った方が、まだ顔と名前を覚えられそうだったのに。
ぐったりと歩いていたら突然、大きな雷が落ちたような音が響いた。
「何の音!?」
あの方向は……たしか、宮廷魔術師の研究棟だ。
「帰りましょう」
レイの判断が早い。
普段無表情のレイが、珍しく顔を顰めている。
「そこで帰ったら豊かな人生は送れないよ」
指をチッチと振る。
本当に。まじで。
野次馬根性は必須技能。
レイがいかなくても私は行くぞ!
「……私も行きます」
レイはそう言うと、私を置いていく勢いで歩き始めた。
少しニヤニヤしながら私もついていく。
レイがついてきてくれて、ちょっと嬉しかった。
魔術師の研究棟は、宮廷魔術師達が集まる石造りの建物と、外に実技用の円形の演習庭がある。
今回は演習庭の方に人が集まっていた。
「あまり目立たないように、こちらから見ましょう」
レイに連れられて上がったのは、演習庭を見下ろせる石造りの円形回廊だった。
欄干の向こうには、広い石畳の庭が見える。
下からはこちらを見上げにくいから、たしかに目立たない。
「今日は何をやってるのかな?」
演習庭の中央には、黒いステッキを持ち悠然と立っている青年がいた。
そしてその人の周りには若手から中堅まで、魔術師の人と剣を持った騎士団所属の人が、それぞれ武器を構えていた。
「魔境遠征の選考会ですね。数年に一度、我が国の戦力向上を目的として行われております」
もしかしてレイって、私が魔境遠征に行きたがると思ってここに来るの嫌がってた!?
さすがにまだ子供だから行かないよ……。行きたいけど。
欄干の隙間から、様子を伺う。
「あの人誰?」
ステッキを持った青年は、黒髪で、金色の瞳を持っている。
なんだかレイと雰囲気が似てる気がする。
「……あのお方はハンス・レガリウス辺境伯です。筆頭宮廷魔術師ですので……そのうち顔を合わせることもあるでしょう」
歯切れの悪い言い方だった。
なんでそこまで嫌そうにしてるんだ?
レイの顔を見ても、理由はわからなかった。
再び、欄干の隙間から覗く。
まさか。
彼一人で、十人以上いる全員を相手にするの?
ハンスがステッキをトンと床に打って、それは始まった。
騎士が切り掛かる。
魔術師が杖を振って雷の魔法を行使する。
しかし、それは届かない。
ハンスは一歩も動いていないように見える。
指揮者のように杖を振るだけで、雷の魔法は打ち返され、騎士の剣は見えない何かに阻まれるように弾かれていた。
正確に、最善手を打っている。
それ以上ない回答で、全員を相手にしている。
呼吸が荒くなる。
これだよ、私の求めていたものは。
胸の奥が満たされていくのを感じる。
私も、あれになりたい。
あれに挑んで、勝ちたい!
自然と笑みがこぼれる。
「姫様、帰りましょう」
どう立ち回ればあれを倒せる?
もっと連携しないと。
魔術師十人、騎士十五人。同時攻撃は効果なし。
だけど魔術師が騎士を守りながら攻めたらどうなる?
いつのまにか私も懐から杖を取り出して、参戦しようかと構えた。
「姫様?」
しかし手に持った杖は、後ろにいた執事のレイにひょいと取られてしまった。
「えっ、どうして?」
私も戦って、同じ熱を感じたいのに。
あれこそ、私の求めていた世界なのに。
レイを見上げると、あからさまに目線を逸らされた。
言いたくない、と?
ほんの短い沈黙のあと、レイは静かに息を吐いた。
「姫様、私と勝負をしていただけませんか?」
意を決したように、レイはこちらを見た。
さらりと銀色の長髪が流れる。
片眼鏡をかけたオッドアイの瞳からは、何も感情を読み取れなかった。
「……わかった」
私が赤ちゃんに転生した時から側にいた執事。
だけどレイから挑まれる勝負は、今日が初めてだった。
私に勝負事で勝てたことなんて、一度もないくせに。
そんなに言うなら勝負しようじゃないか。
「レイが勝ったら何が欲しいの?」
「……一週間ほど、姫様の館周辺から出ないでください」
薄く笑みを浮かべて、レイはそう言った。




