1-2 エレナの手記
ー侍女のエレナの手記ー
姫さまの誕生とともにミリア陛下がご逝去され、乳母のビーグル様が王宮に出入りするようになりました。
初めての育児になりますが、姫さまの愛らしい灰色の髪と赤いお目目。
こんなに可愛らしい姫さまに仕えられて、私はとても幸せです。
お世話の面で姫さまは泣くことも少なく、とても育てやすい赤ん坊です。
ビーグル様がお乳をあげるのですが、正直代わりたいぐらいです。
なぜ私は独身なのでしょう?
私に子供がいれば、お乳もあげることができたのに。
今日ほどそのことを後悔した日はありませんね
♢
生まれて半年が経ちました。
姫さまが突然魔力を暴走させて大変驚きました。
すぐに眠りの魔法をかけて眠らせてから陛下にご報告しました。
目を離さず様子を見るようにとの仰せでしたが、正直対応に自信がありません。
赤ん坊が魔力を暴走させるなんてことは聞いたことはなく、どの者に聞いてもまともな情報は得られませんでした。
以来、姫さまの様子を見続けました。
そして恐らく排泄のストレスで暴走するのだと結論付けましたが、徐々におしめの汚れが少なくなっていることに気づきました。
布が浄化されている?と推論を立てて陛下に報告し、一度黄ばんだおしめをつける事の許可をもらいました。
すると、やはり黄ばんだ部分が綺麗になっていました。
……赤ん坊が魔法を使うなんてあり得ません。
魔法と言うのは、頭で明確な想像が出来ないと発動しません。
つまり姫さまの思考能力が少なくとも一般的に魔法が使える最低年齢の5〜6歳相当と考えられます。
すぐに陛下に報告すると大変喜ばれました。
ちょっと親バカだと思いましたけど(二重線が引いてある)
しかし正しい魔法の使い方をしらないと事故の元になりますし、魔力欠乏を起こすと危険です。
絵本や魔法の教育も無理のない範囲で始めても良いとのことでしたので、意思疎通をするために早速言葉の練習から取り掛かろうと思います。
陛下は才女の誕生だとか聖女爆誕だとか日々おっしゃっていますが、直に接している私からすれば姫さまは赤ん坊っぽさがないような違和感があり、じっとこちらを見つめて様子を伺っているので不気味です。
ふと、町小説である悪い魔法使いが魂を乗っ取りそのものを破滅に導くというお話を思い出しました。
ないとは思いますが、何ごとも挑戦です。
姫さまの前に、「貴方のことはわかっています。姫さまの体から出て行きなさい」と書いた紙を見せました。
もし、文字が読めるなら何かしらの反応があるはずです。
しかしながら、その紙を見せると嬉しそうに指を文字にくっつけて「モージィ」と意味のわからない単語を口にするばかりでした。
それに、紙を取ろうとすると力強く胸元に引き寄せるので困ったものです。
もし、陛下にこの文字を見られたらと思うと恥ずかしくなり、平時ではいけないことですが眠りの魔法を使い取り上げてしまいました。
代わりにと言ってはなんですが、文字表を書いた紙を握らせておきました。
その後、レガリウス辺境伯に連絡を取るように言われ、その通りにしました。
かの辺境伯は、魂をも見通せると言うレガリウスの魔眼を持っていますので、邪悪な憑き物ではないかを調べるのだと思います。
レガリウス辺境伯を初めてこの目で見ましたが、10歳とは思えない美貌と聡明さで、後輩のアナンナは物陰から見ただけで、卒倒していました。
これはあと数年もすれば社交界の黒薔薇と呼ばれるでしょう。
結果、姫さまは正常とのことでした。
本当でしょうか……?
しかし、お世話を続けるしかありません……。
♢
姫さまは日々成長されています。
最近の姫さまのお世話についてですが、たまにおしめが光るので替えに向かうと全く汚れがなく、交換の必要すらありません。
これは野宿をする旅の者がよく使う生活魔法と同じレベルで便利なのですが、王族が覚える魔法ではないため(主に陰部が光るため)これから情操教育が必要になりそうです。
そして、知育面ではすごい成長が見られました。
ずっと絵本の文字を眺めていらっしゃって、声に出して読んで差し上げるとすぐに単語を覚えてしまいました。
私のことも「えれなー」と名前で呼んでいただけて、まだ1 歳にもなっていないと思うと現実離れしすぎていてどう姫様に接していいかわからなくなりそうです。
魔法技術については、レガリウス辺境伯の植物魔法を見てから何度も同じ花を作り出すようになりました。
毎日陛下にご報告しておりますが、「エレナ。アリアに植物魔法を教えたのか?すごいじゃないか」と言われてしまいました。
私は何もしていない為複雑な気持ちです。
♢
姫さまのハイハイが始まってしまい、もう手がつけられません。
仕事を投げ出したいと思う日もありますが、そんなことは許されません。
姫さまも動けるようになったからか以前よりもご機嫌で、私にぶつかりそうになると身体強化魔法を微力に発しながら逃げていきます。
危ないので追いかけますが、すばしっこくてなかなか捕まりません。
構ってほしいのかと思い、積み木遊びなど提案しますが、あまり興味を示さないようです。
どちらかと言うと絵本の方が喜ぶので、絵本の種類を増やさなければいけませんね。
幼児期の魔法練習は様々なやり方がありますが、まずは危険の少ない花などの植物魔法から始まって、生活魔法を経て4属性魔法が一般的な流れでしょうか。
恐らく姫さまの場合、見たら真似をしているので下手に生活魔法を見せると発展して4属性はすぐに覚えるでしょう。
やはり、水や火の魔法は危険なので慎重にならざるを得ません。
と、思った矢先。
教えてもいないし見せてもいないのに次々と魔法を習得していきます。
どういうことでしょうか。
私が見ていないところで床が濡れていたり、少し壁が黒ずんでいたりすると、姫さまが恐ろしくてたまりません。
はやくクレバンス伯爵家から執事が来て欲しいものです……。
♢
やっとクレバンス伯爵家から執事がやってきました。
姫さまと顔合わせをする前に、執事として準備があるとのことで、様々な引き継ぎを行っていきます。
しかし、レイ様の仕事ぶりは目を見張るものがあります。さすが歴代優秀な執事を輩出するクレバンス伯爵家ですね。
姫さまが眠ると、熱心にメモ帳に何やら書き込んでいるようです。
少し横から見ると、サイズと重さのメモでしょうか。
何か購入するものでもあるのでしょうか?
先輩として、アドバイスが必要だと思い声をかけました。
「レイ様。購入申請の仕方はご存知ですか?わからないことがあればなんでも聞いてくださいね」
「?。エレナさん、ありがとうございます。購入申請の仕方などの必要事項は一通り学びました」
「そうですか。これからよろしくお願いしますね」
「えぇ。こちらこそ」
と、綺麗にお辞儀をしてくれました。
8歳でこのように大人のように振る舞えるのは、クレバンス伯爵家の躾術のおかげでしょうか?
躾の内容は外部には知られていないので私も詳しくは知りませんが、有効だと言うことはこの子を見れば火を見るより明らかと言うものですね。
これで胃薬を飲む必要もなくなったでしょう。
あぁ、ハレルヤ。
久しぶりに実家に帰って両親の顔を見に行きましょう。
そして、たくさん育てて頂いたお礼を言うのです。




