表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/144

13-6 憧れの人

 下山はとても早かった。

 私が創造魔法で出した椅子に座って、ルヴィアが飛ばして学院まで帰ったのだ。


「旧校舎って、ここで合ってるの?」


 ルヴィアが確認している。

 見た目は廃墟。

 オバケが出るとしたらまさしくここだろう。


「そうだぜ! 俺が昼に一回入った時には何も起こらなかったんだよ!」


 そりゃあ、深夜って話なんだから昼には起こらないだろうに……。


「僕は帰ろうかな。興味ないし……」


 あくびをして眠たそうなドミニクは、鉄筆を指で回している。


「俺を置いてくつもり? こんなとこ……アリアじゃ頼りにならないでしょ」


「えっ、私頼りにならないの……」


 いや、物理的な敵だったら倒せるけどさぁ……。


「なんだ、お前ら……クランツェフト組全員ビビリか?」


 タイニーが呆れている。


「情けねぇな! タイニー、俺たちだけでも行こうぜ!」


「ちょ、私は怖くないって!」


 旧校舎に入っていくグランとタイニーを、私は急いで追いかける。


「はぁ。なんで僕が……」


「ほら、ドミニク。早く進んでよ!」


 振り向くと、ルヴィアがドミニクの背中を押していた。

 ルヴィアって怖がりなんだ……。


 旧校舎の中に足を踏み入れた。


 パキ……。

 歩くたびに廊下の床が軋んでいる。

 いつ床が抜けてもおかしくない。

 というか、そこらじゅうに水晶のような紫色の鉱石が床から生えている。


 鉱石が放つ淡い光で明るさは問題ないのに、雰囲気が終わってる。


「立ち入り禁止にするべきでしょ……」


 ずんずん進んでいくグランとタイニーに、ゆっくり後ろからついてくるドミニクたち。

 どっちと行けばいいんだ……。


 このままだと完全にひとりぼっちパターンだ。


「ま、待ってよ!」


 走ってグランたちを追いかける。

 ふと、どこからか声が聞こえた気がした。


「……リア」


「え? ハンス来てるの?」


 振り返ると、ドミニクたちがいなかった。

 前を向くと、グランたちがいない。


「は?」


 床の音が鳴らない。

 いや、それどころか鉱石も生えてなければ新品のような校舎が私の目の前に広がっていた。


 誰もいない。

 ハンスの声は幻聴だった。


「あ、やられた!」


 七不思議の内容は、名前を呼ばれて答えると神隠しに遭う、だった。


 もー!

 ちょっとありえるぐらいの方向性の人選!!

 幻聴にしても、もっと他の人いたでしょ!?


「来るなら来い!」


 何の罠か見極めてやる!

 しばらくじっとしていたが、何も起こらない。


「……転移罠? でも景色一緒だし……」


 歩いて旧校舎の外に出た。


 夕暮れだ。

 外は寒くもなければ暑くもない。


 学院の風景はいつもと同じ。

 空を飛んで上から見ても、変化はない。


 ただ――人がいない。


 パチンと指を鳴らして、寮の部屋に転移する。


 部屋は何も置いていなくて、私の私物もない。


 またパチンと指を鳴らして転移する。

 クランツェフトの皇城だ。


 ……誰もいない。


 転移して、転移して。

 街にも、どこにも、人がいない。


「どこ……ここ……」


 精神攻撃?

 幻惑?


 いや、そんなはずない。

 ちゃんと魔眼で見てた。

 それに、ちゃんと私の魔力は減ってるし、お腹も空いてきてる。

 

 腕を切りつけてみたけど、ちゃんと痛い。

 レガリウス城に転移してみた。


「魔境が……」


 なかった。

 ぽっかりと穴が空いたみたいに、黒い空白地帯だった。


 ハンスの研究書を思い出す。

 この世界について書かれていた記述。


 ――この世界は、多層に繋がっている。

 魔法という言語を通すために、調整された空間が存在する。

 人の願いを照射する、裏側と呼ぶべき位相空間が。


「ハンスは一度来たことがあるんだ」


 私は出口を探すために、旧校舎へと戻った。

 入ったところから出られると思ったんだけど……出る方法がわからない。


 廊下の床にしゃがみ込んで、壁に背を預けた。


「はぁ……」


 目を閉じてもレイの視界は見えない。

 ここは、現実と隔離されている。

 

 一人だ。

 ……寂しい。

 一人は、やだよ。


 どうして、私はハンスを困らせてばっかりなんだろう。

 このままじゃだめだって思っただけだったのに。


 あのハンスの膨大な知識の中で、孤独を埋める本棚の中で、強い憧れの中で――見てしまった。

 私の中に、ぽっかりと空いた穴を。


 寂しかった。

 置いていかないで欲しかった。

 ハンスがいないと、ダメになってしまった。


 ずっと見て見ぬふりをしてきた。

 勝負の熱で誤魔化してきた。

 何も考えないようにしてきた。


 見なければ、気付くこともなかった。

 見なければ、一人で立っていられたのに。


 ……だってそれは、もう埋まらないんだから。

 足掻いて、もがいて、それでも紛れない寂しさが、心の中の穴になって――。


「お母さん……」


 遊びたかっただけなんだよ。

 ただ、それだけ……。


 遊びたいって言えなかった。

 我慢してた。

 何回だって言えばよかったのに、言えなかった。

 幼少期の私の、始まりの気持ち。


 私は、ハンスに何を求めてるんだろ……。

 こんなの、ハンスに言うことじゃない。


 私はこれから皇帝になって、責任を持って、ハンスと対等になる。

 それが、ハンスの孤独を終わらせると思ってた。

 でも、そんなことしなくてもハンスは大丈夫だったのに。


 対等になった先で、私は……また一人になるの?


 違う。

 私は彼の矜持ごと全部愛してる。

 私はもうあの時に負けたの。

 私の矜持は粉々に砕けて、なくなってしまった。

 だから、私は彼が折れないようにずっと彼の矜持を守るんだ。

 だから皇帝になって、彼を見続けるの。


 そう、決めたのに。


 ……強くなりたい。


「うぅ……」


 せめて、泣かないぐらい……強くなりたかったのに。

 強がりくらい言わせてよ。


 甘えたくないよ。

 本当は甘えたいのだとしても。

 私がハンスのことを必要としてて、そのためなら全部捨ててもいいと思ってたとしても――。

 

 だって、私の憧れの人だもん……。


 曲げた膝に顔を埋めて、涙を流す。

 人が歩く音が、聞こえた。


「動かなかったのは、賢明な判断ですね」


 だから――助けに来ないでほしかったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ