13-4 守護者達の憂鬱
リアが男として学院に通い始めて、数日が経った。
彼女が私の追跡を撒く技術は日々向上している。
こんなものが続けば、この光景が学院の風物詩になる日も近いかもしれない。
昼食を終えてリアを追いかける。
自身の状況をわかっているのか、いないのか。
むしろ、追いかけられているのを楽しんでいる節もある。
不安定な状況で、よくもまぁあれほど騒げますね……。
「ハンナ先生頑張ってください〜!」
「アリアーデさんあっちで見ましたよ!」
街頭応援ですか?
なんの催しに該当しているのでしょうね。
「ありがとうございます。あなたたちも早く次の授業に向かいましょうね」
にこやかに手を振ると、女子生徒たちが手を振り返してきた。
リアが視界から消えたが、どこにいるのかはわかっている。
中庭に入った時、声が聞こえてきた。
「アリアーデさん、今のお姿がとてもタイプなんですけど、このまま男性になって私とお付き合いしていただけませんか!?」
女子生徒がリアの手を取って、妙な告白をしている。
なんという……。
「えっ本当!? 嬉しいな! 君名前は? どこのクラス?」
その返しは下手すぎませんか?
素早く近寄り、リアの腕を引いて回収する。
「あなたにはまだ早いですよ」
「ちょっとハンナ先生! 私の今世初めての告白イベントだよ!?」
……男女の見境はないのですか。
「というより、私のものは回数に入っていないのですか……?」
「あれは……鈍器で殴られた衝撃だよ……告白というより、もはや暴力事件……」
……レイのものも同じような理由で除外されていそうですね。
「軽率に余計な問題を増やさないでください。わかりましたか?」
「ごめん……。あれって問題だったんだ……」
しょんぼりしたリアは、一応反省しているように見える。
「……次は気をつけてください」
心配しかないですが……。
♢
「はぁ……」
ため息の数をもし数えてしまったら、正気でいられる気がしない。
ハンナの姿で人気のないテラス席に座っていると、レイが校舎の屋根から飛び降りてきた。
「ハンス様。想像以上に姫様は……馴染んでおられるようです。今は男子生徒と腕相撲をしています……」
パチンと指を鳴らして、レイに紅茶を出す。
レイは正面の席に座り、リアの様子を語り出した。
「終始楽しそうですし、戻りたいとは思っていないのではないでしょうか……」
「そこは問題ありません。……リアがいつ自身の孤独に気付くかが重要ですね」
レイは訝しむように目を細めた。
……仕方ないでしょう。リアの個人的感情を他人に共有できるわけありませんから。
「姫様が……孤独、ですか?」
リアの前世の記憶を覗かなければ、私も気付かなかったかもしれませんね。
「もう彼女は私に挑む必要も、勝つ必要もなくなりました。リアの心の根元には……」
埋まらない飢えがある。
私はそれを一時的には埋めることができる。
しかし根本的に解決するには、本人が気付かなければ、壊れていた器を直すことはできない。
「ハンス様。姫様の過去を教えてくださりませんか? 私にできることなら、ご協力いたしますので……」
「はぁ……」
「ハンス様。私が知る限り、ハンス様のため息の数は日に日に増えております」
……正気ではない人間が、ここにいた。
「私のため息の数を数える前に、彼女と遊んであげてはいかがですか。寮にいるのですから、枕投げくらい毎晩できるでしょう」
リーンとレイは、現在役目を交代している。
「それで姫様が満足されるなら……」
それで満足する彼女なら、とっくの昔に私がやっていますよ。
「少なくとも、やらないよりはマシでしょう」
「そうですか……。それと、ハンス様はこの学院の七不思議をご存知なのですか?」
あれですか……。
「ええ。全て検証し終えていますし、リアに危害が及ぶものではありませんよ。心配なのでしたら、あなたも同行すればよろしい」
学院の七不思議は、私がこの学院に在籍した当初に調べ尽くしてある。
……あれがあったからこそ、私の研究は進んだのですが。
「……ハンス様は参加されないのですか?」
「私がいると、リアが楽しめないでしょう」
そもそも私の評価など、気にせず遊べばいいものを。
リアはもっと自分自身を大切にするべき……というのは、今の彼女には無理な話でしょうね。
「姫様は、ハンス様と遊びたいのだと思うのですが……」
「私は怒っているのですよ。もう少しぐらい、リアを悩ませてもいいでしょう」
レイは私の顔を見て、少し身を引いた。
本当にいい度胸です。
あれもこれも、欲張りに欲しながら……肝心なものには手を伸ばさないとは。




