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13-2 祝祭をあげよう

 レガリウス城の談話室にて話し合いは始まった。


「リアの今の状態は単なる変身では説明がつきません」


 暖炉には火がついており、外は雨が降っていた。

 ハンスは歩きながら思考を整理している。


「リアは……男性になりたかったのですか?」


 ハンスは立ち止まって、アリアーデに問う。


「守られたくなかったから……。だって、その方が皇帝にもなりやすいし、舐められないし……人と関わりやすいから」


 アリアーデの過去を見たハンスは、理解できてしまった。

 彼女が本当に、女という性を煩わしく思っていることを。


「深層心理が、現在の肉体を拒んでいないということでしょうね」


「しかし、ハンス様……拒んでいないからといって、戻らないということはあるのでしょうか?」


 レイの疑問はもっともだった。


「私の場合、女体化する時は知識を持って想像で補っていますが、リアの場合は願いが元になっています」


 ハンスはパチンと指を鳴らして、ハンナちゃんになった。


「願いを伴う魔法は、一度この世界の法則を通され、実現可能な現実へと変換されます」


 ハンナちゃんは暖炉に薪を焚べた。


「通常の魔法行使の際も、魔力という対価を世界に支払う形で成立していますが、願いは結果すらも世界に委ねてしまうので、再び戻るにはその願いを打ち切らなければなりません」


 アリアーデは、いまいちピンときていないようだった。


「なぜ原文を読んだあなたが理解できていないのですか……」


「えっ、だって本気で願えば叶うってことでしょ?」


 ハンナちゃんが、ソファに座って足を組んだ。


「深層心理は願ったところで変わりませんよ。結果が安定しない魔法だからこそ、この研究は未発表なのですから」


 沈黙が落ちた。

 パチパチと木が燃える音がした。


 沈黙を破ったのはアリアーデだった。


「だったら、戻りたくなるような何かが心の奥にあればいいってこと?」


「あるいは、男性でいることを拒絶するような出来事があれば」


 ハンナちゃんは、パチンと指を鳴らしてハンスに戻った。


「二日後には学院が再開してしまいますが……姫様はどうなってしまわれるのでしょうか?」


「……学院に男性のまま通えばいいと思いますよ。もしかすると、それが最善かもしれませんね」


 ハンスはまだ直接的な手を下したくはないと思っていた。


「あ、なるほどね! 満足したら願いも願いじゃなくなるから、楽しめばいいんだ!」


 レイとハンスは揃って顔を顰めた。

 おそらく二人とも、そうじゃないと心の中でツッコミを入れている。


「じゃあ早速、枕投げしよう!」


「……は?」


「姫様……」


 こうして、インテリ二人と陽キャ一人による、愉快な日常が始まってしまったのだった……。



 ♢♢♢

 

 

 レガリウス男子はノリが悪い!

 枕投げすらやってくれないなんて……!


 レイにみんなで一緒に寝ようって言ったら断られたので、今はハンスの寝室に居座っている。

 ……おかしい。男になったのに、みんな扱いを変えてくれない。


「それで、どうして私の寝室に?」


「みんなでお泊まり会したかった……」


 夜な夜な恋バナしたり、ゲームで遊んだり……。


「……幼児退行していませんか?」


「な! 十六歳の健全な男子はお泊まり会して仲良くなるんだよ!?」


 ほんと、レガリウス男子どうなってるの?

 ……年齢が離れてるのがだめなのか!?


「あ、先生だからか……」


 悲しい現実がそこにあった。

 私は諦めてゆっくり布団に潜り込んで丸くなる。


 布団の中はハンスの匂いがして、すぐに眠気がやってきた。


 ♢


 翌朝。


 私はお姉様に任せきりだった仕事をするために、クランツェフト皇城へとやってきた。

 なぜかハンスも来ると言って聞かなかったので、一緒に行動している。

 

「これ、リーンが作ってくれたの?」


 執務室でリーンから渡されたのは、男の子用の服だった。

 ハンスから服を借りていたから、とても助かる。


「はい、昨日ハンス様が来て状況を教えてくださいましたから。それにしても、なんで男体化してるんですか……」

 

 後ろのハンスを見たら、目を逸らされた。

 いつのまに仲良くなったんだろ?


「いいでしょ! ずっと俺のターン!」


「アリア様ぁ……! 遺跡で頑張って謎解きしてたのが少しバカらしくなってきましたぁ!」


 え、遺跡で謎解きしてたんだ……。

 いいなぁ。


「でもこれなんか、ちょっと子供っぽくない?」


 リーンに渡された服は、白シャツにサスペンダーに短パン。

 ハイソックスに革靴。

 黄色い帽子があったら、幼稚園児かもしれない。


 パチンと指を鳴らして着替えた。

 すると、リーンが食い気味に私の周りをまじまじと観察し始めた。


「最高です! あ、次のアイデアが今降りてきました!」


 なんか……やばいスイッチ入っちゃったな……。

 

 ハンスを見ると、少し横を向いてふっと笑っている。


「……まぁ、可愛らしい格好ではありますね」


「それ褒めてないから!!」


 そこはかとなく、お坊ちゃん感がある。

 可愛いより、かっこいいがよかったのに……。


「姫様、やはりここは三つ編みでしょうか?」


 レイは櫛を片手に近づいてきた。


「もう、なんでもいいよ……」


 髪の毛は長いままだから、結ばないと男の子っぽくなれない。


 突然、扉がバァン!と開いた。

 お姉様が息を切らしている。

 走ってきたのかもしれない。


「アリアちゃん! どこ!?」


 お姉様はきょろきょろと探して、私と目が合う。


「アリアちゃん!? ……お、男……」


 呆然と私を見た後、お姉様はだんだんと震え出した。


「あなた達!? 私のアリアちゃんを、ちゃあんと見ておきなさいよ! 私の諜報員の妨害ばかりして! そんなんじゃ、アリアちゃんを任せられないわぁ!」


 珍しく声を荒げて、レイとハンスに怒っている。


「なぜあなたの許可が必要なのですか……」


「あらぁ? 口ごたえするのね? だったら私がクランツェフトの皇帝になってアリアちゃんと同性婚する法律を作るわぁ」


「ちょ、お姉様!? ハンスは悪くないです。むしろ頑張って私を助けてくれました!」


 ハンスとお姉様の間に割って入って、ハンスを庇う。


「リア。あなたを守れなかった責任は私にありますよ」


 つんつんと肩をつつかれたあと、ハンスに後ろへ引かれて、そのまま立ち位置が入れ替わった。

 

「これだからレガリウスは嫌いなのよ。あなた、アリアちゃんのこと、幸せにできるって言ったじゃない」


 え、いつそんなこと言ったの?

 お姉様を見ようとハンスの背中から顔を出そうとしたら、ハンスに後ろ手で頭を押さえられた。


「そうですね。それは今もそう思っていますよ」


「アリアちゃんの分身が消えて、ほんとうに心配したんだから……。守れないなら、身を引いてちょうだい。あなたの他にも、アリアちゃんを好きな人はいくらでもいるわぁ」


 お姉様……心配かけちゃったな。


 ハンスはふっと笑った。


「私の他に、ですか。私より優秀な代替があるのなら、ぜひ見てみたいものですね」


「嫌味な男は嫌われるわよぉ? ねぇ、アリアちゃん」


 ここで私に振るの!?


「えっと、ハンスより優秀な人は見たことないなぁ……」


「ああもう! どうしてそっちの味方なのよ!」


 事実だし……。

 あれ? でも、それならなんとかなるかも!


「お姉様、今の私は男です! 守られる必要はありません!」


 ハンスの背中をバシッと叩いて隣に並んで、腰に手を当てて胸を張る。


「……ねぇ、あなたこれでいいの?」


 お姉様は心配そうにハンスを見た。


「……いいと思えていたのなら、私はここにいませんよ」


「もう少し私を信用してくれてもいいのに……」


 今の私は男で、ハンス並みの戦闘力もあるんだから、もはやハンスみたいなものじゃん。

 もしかして、やっと私が守る番になれる!?


 みんなが私を心配そうに見てくる。

 よし、私がしっかりしないと。


「大丈夫だよ! みんなまとめて守ってあげる! 早く仕事終わらせて、学院に出発だー!」


「アリア様……なんか違うと思いますぅ……」


 リーンが眉をハの字にしてこちらを見ていた。

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