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転生皇女はヤンデレ達と遊びたい〜優雅な笑顔で心を折りにくる宿敵と恋仲になれると思いますか?〜  作者: 池田ショコラ
番外編 ハンスと愉快なアドベンチャーゲーム
134/135

12-5 ちょうどここに雌の個体が

 リアが魔昌石を使うか迷っている。


「リア。私の言葉を信じないでください。私はその記憶を恐れていると同時に……あなたの決意が美しいと……感じてしまう」


 美しい……? 駄目だ。

 どこからが私の感情で、どこからが異物か判断できない。

 彼女の愛は本物で、たしかに私の心を貫いていた。

 どうしようもなく彼女を欲してしまう感情が、ずっと心の奥に燻っている。


「私の中にはあなたの記憶を奪った元凶がいます。もう私ではこの思考がどちらのものか判断できません……」


「この袋の中に、ハンスの記憶もある。……記憶を消すつもりだったでしょ」


 少し私を責めた言い方だった。


「これが最善なの?」


 それが最善の選択……?

 いや、そうではない。


 ……ああ、なんてことだ。

 私は自分の記憶を消した後、誰に私の記憶を戻してもらうつもりだったのですか。

 そこまでリアにさせるなど、ありえない。

 

 私はずっと、私の手でリアに記憶を返したかった。

 リアは、私に傷つけられる可能性から目を逸らさない。

 むしろ、リアが私に望んでいるのは、それでも私が立ち続けることだ。

 だからこそ私は、リアに選んでもらえる私でい続けると、そう決めていた。


「それを使う必要はありません。先に元凶を断ちます」


 侵食源を経てば、私なら必ず対処法を思い付くはずです。


 アルフォルト。聞いていますか?

 私の自他境界を歪め、自己同一性を揺らした責任は――取っていただきます。


『君の中は最高だった。美しいものは、さらに美しく。次は彼女のところへ行こうか』


 いつまで観客席にいるおつもりですか。

 あなたはこれから陸を歩き、そして枯れていくのですよ。


 分身を作り、それを子供ぐらいの大きさのクラゲに変える。

 そして、クラゲの分身にアルフォルトの記憶を移した。

 

 精神攻撃を行えるほどの魔力は、分身に入れていない。

 さらにアルフォルトの思考を私から切り離すためには――。


「リア。擬似魂を貸してください」


「あ、なるほど?」


 リアが契約魔具から擬似魂を取り出して、私に預けた。


 クラゲの中に擬似魂を入れる。

 ただの器では意味がない。擬似魂で自立性を与え、侵食源を私から断たなければ、思考は安定しない。


「私に体を与えて、どうする? まだ君の中には私の分体がいるだろう」


 アルフォルトが魔力を声に換えて喋りかけてきた。

 精神汚染された部分のことですか。

 ……ようやく、何がおかしかったのか見えてきました。


「それなら、問題ありません。もう特定できていますから、駆除するだけです」


 記憶や思考を切り分けて処理することは、私の得意分野だったのに、ここまで侵食されていたとは。


「私は……どうなる?」


 ようやく、気づきましたか。


「リア、講義の続きをしましょう。分身に子供ができるのか、の答えです」


 きょとんとしたリアに、私の講義の記憶を流す。

 リアは顔を赤らめながら、目を見開いて私を見た。


「なっ、今それする!?」


「クラゲの特性は分裂です」


 パチンと指を鳴らす。


「おや、ちょうどここに雌の個体がいますねぇ」


 一回り小さなクラゲを、アルフォルトの隣に置く。


「何を……」


「安心してください。あなたに必要なのは交わりではなく、分裂です。彼女に醜態を晒したくないのなら、あとはわかりますね?」


 リアが手で目を覆っている。

 ……指の隙間から見てますね。


「ハンス……先生、質問していいですか?」


「ええ」


「本当に子供が生まれるの?」


 まぁ、本来なら生まれないのですが……。

 少なくともクラゲの場合、分裂に伴って魂の発生が起きる例は確認されています。


「擬似魂で世界を騙せるか、が焦点ですね。私の予想では七割方成功すると思っています」


 まぁ、成功するまで分裂させればいいだけですが。

 

 ふるふるとクラゲが揺れている。

 ――分裂した。


「あ、魂があるよ! すごいね!」


 分裂したクラゲには、新しい魂が生まれていた。

 擬似魂を抜いて、私に流れてきた記憶をすぐに消去する。

 分身クラゲも、もう必要ないので消してしまう。


「こちらはお返ししますね」


 擬似魂を返すと、リアは顔を顰めた。


「なんか……汚い……」


 ……浄化魔法をかけましょうか。


「これでは、私の力が使えない……!」

 

 新しい魂由来の魔力で音声を発しているアルフォルトは、実に哀れだった。


「魂が違いますからね。ああ、あなたの本体は先ほど処分しましたよ。魂が元の記憶を取り戻すことはありませんから、無害なクラゲがどこかで生まれたはずです」


 あの呪いは魂に刻まれていた。

 また私たちの脅威になるとしたら、自我を形成できるかが焦点ですが……クラゲが持つ自我など大した脅威ではないでしょう。


「ハンス……嬉しそうだね」


「いい実験サンプルが手に入りました。陸を歩かせたかったのですが、死なれても困るので水に入れましょうか」


 パチンと指を鳴らして、簡易の水槽を用意する。

 ひとまずクラゲをその中へ放り込んだ。


「……君は彼女を傷付け続けるだろう」


「見苦しい負け惜しみですね。傷付けることを恐れていては、前に進めないでしょう」


 ふるふるとクラゲは震えている。

 まさか……喜んでいるのですか……?


「やはり燃やした方が……」


「……クラゲさん、後でハンスのこと教えてよ。ちょっと気になってきた」


 突然の裏切りに思わずリアを見た。

 リアは好奇心に満ちた顔でクラゲを見ている。

 クラゲは嬉しそうに揺れている。


「君が望むなら」


「却下です。平気で嘘をつく人格の持ち主の情報は、信頼に値しません」


 ついでに雌のクラゲも入れる。

 アルフォルトは嫌そうに水槽の壁にへばりついている。


 リアはニヤリとこちらを見ていた。

 ああ、そうですか。

 自身が私にとってどのような価値があるのか、ようやく理解できましたか。

 それにしても、私に対してその揺らし方はいささか雑だと思いますが。


「そんなに知りたいのなら、結構。容赦なく教えて差し上げますよ」


「あ……ミスった……」


 あはは、と笑うリアに、こちらも笑顔を返す。

 リアの手を取って、私室に転移した。


〜アルフォルトと見る芸術〜

まず罪悪感を増長させることで、判断を鈍らせ、アリアーデを守る方向へ舵を切らせる。

他者を内側に入れ、孤独の殻を破らせて中身を鑑賞する。美しい!

なんと、自身で持ち直した?ブラボー!君は最高だ!

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