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転生皇女はヤンデレ達と遊びたい〜優雅な笑顔で心を折りにくる宿敵と恋仲になれると思いますか?〜  作者: 池田ショコラ
番外編 ハンスと愉快なアドベンチャーゲーム
132/136

12-4 孤独は私を強くする

 彼女が欲しい。

 船員達の愛を喰らい尽くしても、なお足りなかった。

 

 彼女の記憶を見た時、どうしようもなく鮮烈で、焦がれた。

 彼女が守っていた彼の孤独。

 そして、手放せない愛の証明。


 どうしようもなく――愛おしい。



 深夜。

 頭の中の声がうるさく眠れない。


 その揺さぶりの仕方は、私そっくりですね。

 迷惑な話です。

 私に混ざろうなどと、思考する人間がいるとは。


 ここまで私を腹立たせたのは、あなたが初めてですよ。


『それは光栄だ。私は君の中で生きることに決めた。私の船員達の能力は皆使えるものばかり。上手く使うといい』


 ……私が許すとでも思っているのですか?

 あなたを私から切り離して、逃さないように檻に閉じ込める方法など、探せばいくらでもあるはずです。


『方法が見つかっていないことはわかっている。だからこそ、こうして私は君と会話することにしたのだから』


 会話……ですか。

 私の精神を汚染しておきながら、本当に会話が成立すると思っているのですか?

 

『会話とは。人を深く知る手段だ。君の精神は今まで見たどの人間よりも強靭で――脆い』


 私の精神に美を見出すのは、気持ち悪いのでやめてください。

 あなたのその空っぽの心で、一体何を満たそうとしているのでしょうか。

 隙間だらけで溢れていくのを眺めるのがお似合いですよ。


 ――頭の中が、ようやく静かになった。

 これは会話というより喧嘩だろう。


 明日はリアの要望通り、魔法戦をする。

 ……私が負けるとは思えないのですが、彼女は私のどこをみて勝機を感じたのでしょうか。


 ♢


 レガリウス城の中庭。

 石畳の円形広場で、私たちは対峙した。


「ルールは転移と分身の禁止にしましょうか」


 ……分身は特に、意識を乗っ取られる可能性がある今は危険ですからね。


「うん。私が負けたら前世の……私の生活を見せてあげる」


 リアは腕を組んで悩みながら、答えた。


「では、こちらはリアの記憶と、私の幼少期ですね」

 

 リアは白い杖を構えていた。

 懐かしい光景だった。


 レイが合図をすると、リアは私の方に走り出した。

 リアは目の前に空間の穴を開けて飛び込んだ。


 上からやってくる。

 空間の穴が私の真上に繋がっているのがわかった。

 彼女を迎えるための、植物魔法の罠を張る。


 ……やってこない。

 目の前にある空間の穴は、確かに私の上に繋がっているはず。

 そもそも、入っていない?


 上空の穴に雷魔法を打ち込むも、目の前の穴から出てくるだけで、リアがいない。

 ――どこへ。


「ハンスの負け」


 いつのまにか、リアが私の背中に杖を突きつけていた。


「……二重に穴を開けてもう片方の出口は反転、ですか」


「うん、これなら魔眼でも見えないし、魔力感知も通用しないでしょ?」


 皮肉ですね。私を意識しなければ……最初からリアは私を越えることができたなんて。


「ええ。私の負けです」


「ふふん! レイ見てた!? 私勝ったよー!!」


 両手をあげて飛び跳ねて喜んでいる。


「姫様、おめでとうございます……」


 レイは……泣いている……?

 どれだけ私に勝ちたかったんですか……。


「はぁ。記憶を返しますよ」


 リアが嬉しそうに寄ってきた。

 目を閉じて頭を差し出してくる。


『愛おしい――』


 伸ばした手が自然とリアの頬に伸びそうになって止めた。


 危ない……。

 今、記憶と共に口付けしてしまえば……意味がない。

 新しい愛の言葉と共に上書きして、彼女を満たすのだとしたら、それは私の意思ではない。


 改めて手を頭に乗せて記憶を渡す。

 私とリアがゲーム空間に入り、そして私が宣戦布告したところだ。

 ついでに私の記憶も流してしまいますか。


 リアの顔がだんだん赤くなってきたところに、私の記憶が入ったせいで、すぐに青ざめた。


「!?」


 目を開けて、抗議するように私を揺さぶる。


「昔の私を騙してたの!?」


「人聞きの悪いことをおっしゃりますね。八割本当なら本当でいいでしょう」


 あのゲーム空間でリアに見せた私の記憶は、リアが私と戦えるように脚色が施してある。

 そもそも、人に見せる記憶は整えるべきでしょう。


「それは詐欺だよ! でも、この記憶を見てたら私は……ハンスに挑む気持ちになれなかったと思う……」


「そうでしょうね。あまり人に見せる記憶ではありませんから……」


 他の記憶という選択もありましたが、リアが前世を賭ける以上、それ相応のものを出さなければ不誠実でしょう。

 

「というか、宣戦布告した後のこと教えてよ! 一番大事でしょ!?」


 リアから目を逸らす。


「今日はこれで終わりにしましょう。ああ、学院の講義の記憶を戻しましょうか。あれがなければ冬季休暇後の講義についていけませんからね」


「……私の前世の記憶、気にならない? 今なら特別に勝負なしでトレードできるよ?」


 交渉のつもりですか……。


『見たい』


 うるさいですよ。


『君は孤独だからこそ強かった。今の君は、もう強くなどない』


『強くない君は一体何だ? 君はもう私だろう』


 私の輪郭を崩すつもりですか……?


 あの記憶を……リアに返せないのは、私が拒んでいるからではないとしたら?

 私が幼少期のあの記憶を選んで渡した意思決定は、どこまで私の意思だったのか。


 私は本当に……まだ私でいられているのですか……?


「ハンス、やっぱり何か私に隠して……」


「すみません。今は一人にしてください」


 転移で書斎に飛ぶ。

 ……リアが私に手を伸ばして、私の転移についてきた。


「待って。困ってるなら教えて」


 私がもし私でないなら、アルフォルトの思惑はリアに近づくことにある。


「私に近寄らないでください」


 リアに詰め寄られ、私は窓際に追い詰められる。

 

 今までの選択は、どこまで私の判断だったのか。

 違うはずだ。

 ……先ほどの戦いも思考に介入を受けていたとしたら?


 いいや、あれは彼女の実力だ。

 そうであってほしい。


 リアは泣きそうな顔になって、私を睨みつけた後、机の引き出しを次々と開けていく。


「何を……」


「私さ、よくレイの視界を見てるの。読唇術も少しだけど覚えてきたから」


 引き出しの中に入っている魔昌石入りの袋を、リアは取り出した。


「やっぱり……わたしの記憶だ」


 袋の中には虹色の魔昌石が入っていた。

 あの記憶が詰まっている。


『止めないのか? 君は恐怖を感じている』


 私はまたリアを壊してしまうかもしれない。

 あんなにリアを傷付けたのに、今はもう傷付いてほしくないと思っている。


 彼女の強さを信じているのに、私は彼女に踏み込めない。

 ……私は少しずつ弱くなっていく。


「ハンスの過去を見て、私は綺麗だと思った。ハンスの見る世界が、私は好き」


 リアは私の目を見て、微笑んでいた。

 もう、逃げ場はなかった。

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