間話 なんで好きなの!?
強すぎる。
第一ラウンドは悲惨だった。
私の繰り出す技が全て見切られている。
こんなのありえない!
「ちょ、ちょっと待って!?」
癖を知られてるどころじゃない。
私のプレイスタイルを熟知してないとこの対応はできない。
……今から私は今まで築き上げたプレイスタイルを捨てる!!
それしか勝てる手段がない!
「おやおや、その程度ですか……」
落ち着け私……。
相手をよく見るんだ。
柔軟に戦略を変えて、出方を見るんだ。
「そこで超必!?」
つっよ!
なんで勝てないんだよ!
思わず台パンしそうになって、我に返る。
ハンスを見ると、余裕そうに足を組んでこちらを見ていた。
「私の爪の垢を煎じて飲まれてはいかがですか?」
「はぁ!?」
なんだこいつ!!
煽りの天才か!?
「ククク……特別に違うゲームに変えて差し上げてもよろしいですよ」
ゆ、許せん!
施しは受けないよ!
「もう勝負は負けでいいから、もうちょっと戦って!」
勝つまでやってやる!!
ハンスは私を興味深そうに見て、立ち上がった。
「?」
こちらに近づいてきて、ふっと笑う。
「ようやく、その顔になりましたね」
そしてハンスは私の額に指を当てた。
流し込まれた記憶が、熱が、体の中を満たしていく。
「あ……」
――この人に勝ちたい。
ああ、そうだ。
私の全てを賭けて、戦いたい。
初めて出会った時、そう思ったんだ。
それで、言い合いになって、ネックレスをもらって……気付いたら私の家庭教師になってた。
「ちょっと! なんでこれだけ!?」
それ以上が思い出せない。
「そんな魔法あるなら、全部返してよ!」
なんでもったいぶるのよ!
そもそもこの記憶は私のものじゃん!
……え? でもちょっと待って。
なんでこんなやつのこと好きなの?
「ですから、一度に返すと混乱するでしょう」
う……。
でもでも!
強くて、越えたくて、戦いたくて……。
この熱が私を動かしてて、ずっと勝ちたかった。
ずっと追いつきたかった。
――でも、なんでそれが好きになるの?
「わかんないよ……」
私はこの感情をどう扱っていいかわからない。
記憶がなくても、ハンスを見た時から私の中にあった、この"好き"の感情は……どうしたらいいの?
「授業をしましょう」
ハンスは手を鳴らして、空気を変えた。
「あなたが持て余しているその感情は、いくつかに分類できます」
そう言ってハンスは指を三本立てた。
「まず一つ。勝負への執着」
「二つ。気に入った玩具に対する執着」
「三つ。自己を保つための依存」
一つずつ指折り教えてくれた。
「少なくとも、今のあなたが自覚できるのはその程度でしょう」
何それ……!
そんなのがこの感情の正体ってこと!?
「そんなんじゃないよ!」
「では、どう違うか説明できますか?」
だって……。
「……好きな気持ちって、もっとあったかくて人を思いやる気持ちじゃないの?」
好きって何……?
この感情って、執着と依存なの……?
「今日の課題はそれを考えることですよ」
わからない。
ドミニクやルヴィアに教えてもらった、友達の大切さ。
レイに教えてもらった、家族の大切さ。
じゃあ――ハンスは私にとって何なんだろう。
♢♢♢
レイは黙って見ていた。
ハンスの魂が濁ったのは、姫様が触れてから。
あの程度の接触で濁るお方でしょうか……?
本当にお疲れなのでしょうか。
言葉の一つ一つをとってみても、いつもの精細さに欠けている。
それとも、焦っておられるのでしょうか。
姫様の記憶を確保できた今、焦る必要はないはずです。
「レイ。水槽のクラゲに餌をあげてきてください。私は夕食の準備をしますので」
「かしこまりました」
鍵のかかった地下室には、アルフォルトが安置されている。
私が運んだ時には、人の姿をしていたはずですが――。
……本当に水槽の中に入っていました。
ハンスの分身がやったのでしょう。
水は海水。
なるほど、この呪いにかかった方々は海水の中では海洋生物の姿になるようです。
子魚を入れると、触手が伸びてきて捕食している。
……記憶を失い、廃人となったアルフォルト。
記憶が人を形作るのか、魂が人を形作るのか。
その二つが密接に結びついているのであれば、アルフォルトの記憶が入ったハンスは――本当に信用していいのでしょうか?




