【後編】第九十七話 産まれたばかりの体
「痛ったいわね!」
ミルフィーは苦しみながらも、すぐさま反撃の拳を繰り出した。
「何度攻撃しても無駄だ。お前の攻撃は我に当たらない」
バンは冷徹に言い放つ。
事実、ミルフィーの一撃はバンの体を抜けるように、ただ空を切るだけだった。
「こんな時……先代の二人なら……」
ミルフィーは自身に宿る二人のスターナイツ達の記憶を辿る。
「今から何をしても無駄だ! 消えろ!」
バンが渾身の一撃を放つ。
「消えるのは、あなたよ」
ミルフィーが、くるりと体をそらしバンの一撃を回避し蹴りを放った。
「学習しない奴だ。そんな攻撃いくらやっても……ぐっ!!」
バンが言葉を言い終わる前に明らかなダメージが入りバンの体が粉々に砕け散った。
「私の力は威力でも恐怖でもない。悪を貫く心の力」
ミルフィーは再び構える。
すると砕け散ったバンの破片が集まり元の姿へと戻る。
「驚いたよ。まさか実体のない我の体を貫くとはな、流石は物理法則の通じないブラックホールの力といったところか…」
バンは、なおも余裕そうな表情でミルフィーを見る。
「だがダメージを与えるようになっただけだ。焦るほどではない」
「どうかしら?」
ミルフィーはリボンのオーラで再び鋭い一撃を放つ。
その一撃はバンの一部を消し飛ばした。
「やるな。だが」
バンは焦る様子もなくミルフィーの脇腹に一撃を食らわせる。
「……!」
よろけるミルフィーに追い打ちの一撃が飛んでくる。
「う……!」
ミルフィーは間一髪で交わし、カウンターを繰り出すが危なげなくかわされてしまう。
「……今のは……!」
ミルフィーの顔に明らかな焦りが出る。
その様子を見てバンは考える。
(どうやら新しいスターナイツは、心は受け継いだが、まだ体が戦いに追いついていないらしいな)
ミルフィーも焦りながら考えていた。
(いくら私に先代の知識経験があっても……それを操る為の体が付いてこない……!)
無理もない。彼女にとっては、これが初めての戦いなのだから。
彼女にいくら知識経験が入っても、先代以上の力を持った存在だとしても、今日産まれたばかりには変わりがないのだ。
ミルフィーに鋭い一撃が襲いかかる。
かわすミルフィーに間髪入れず追い打ちの一撃が入った。
ミルフィーは回避が間に合わず一撃をもろに食らってしまう。
時間にして光が抜ける速度と同等かそれ以上かもしれない。
誰も認知する事のできない速度単位の中での、ほんの僅かな遅れが命取りだった。
「かはっ……!」
吹き飛ぶミルフィーは苦しい表情を浮かべて倒れた。
「こんな……こんな事……!私はスターナイツよ! こんな事で諦めない……!」
苦しい表情のままミルフィーは、それでも立ち上がった。
「お前に会うのが一日でも遅かったら我は倒させていただろうな」
バンがミルフィーを見ながら呟いた。
「お姉ちゃん死なないで!!」
星の残骸から妹のミルキィが泣き叫ぶ。
その脳裏には、姉ミルフィーを庇い散った二人のスターナイツの姿が浮かんでいた。
「お姉ちゃんも……このままじゃやられちゃうよ!」
ミルキィが泣きながら力いっぱい叫んだ。
「安心してミルキィ。私は負けない。必ずあなたを守るわ」
ミルフィーは笑顔を作りミルキィを見る。
その姿は知識経験の全てを託したウルヴァとヴァーラ達のようだった。
「お願い! 誰でもいいから! 私が、どうなってもいいからお姉ちゃんを助けて!」
ミルキィがボロボロと泣きながら叫ぶ。
「どうして私には何もないの……!何も守れる力がないの! 私は何の為に生まれてきたの!!」
ミルキィがグシャグシャになりながら泣き叫んだ。
「ミルキィ……」
ミルフィーは悲しそうな表情で妹のミルキィを見つめた。
彼女は先代の記憶から、何故ミルキィが何の力も持っていないのかを理解していた。
(姉である私がブラックホールの力の権化の本体。しかし最強の力を得るには、弱い部分を別のもう一人の自分として分離させる必要がある。それが――あなたなのね。)
(泣く、お腹が空く、眠くなる、本当は戦いたくない。そんな弱い部分を私から消す為に、あなたは……)
悲しそうに妹のミルキィを見つめる。
そんな彼女を無情にもバンの光弾が直撃した。
「……うっ!」
ミルフィーは持ちこたえるが苦しそうに構えた。
突進するバンの猛攻にミルフィーは必死に応戦し激突を繰り返す。
「私は……私だって……お姉ちゃんと同じなんでしょ!だったら私にも戦う力をちょうだい!」
ミルキィが泣き叫ぶとブラックホールから声が響いた。
「君が私の力を操る事はできない。だけど」
「……!」
「もしミルキィに永遠に近い命を生きる事になる覚悟があるなら。方法が無い訳でもない」
「どんな方法なの!? なんだっていいから私にお姉ちゃんを助ける力を!」
「ミルキィ、この力を手にすると君はお姉ちゃんよりずっと長く生きる事になる。」
ブラックホールは言葉を続ける。
「その時、君は数々の大切な人が命を失っていく光景を目の当たりにする。そして君の寿命より宇宙の寿命が先に来る可能性だってある」
「そんな……」
「その覚悟があるなら、お姉ちゃんを超える絶大な力を発揮できるようになる」
少しミルキィは考え戦闘中の姉ミルフィーに目をやった。
傷だらけになり倒れそうな姉は、なおもバンと死闘を繰り広げている。
「私は……私は」
ミルキィは呟く。
「その覚悟を決める。」
ブラックホールへと向き直る。
「永遠に近い時間で皆も守る!」
ミルキィの目に確かな光が宿った。
「念の為もう一度聞くよ。本当に、いいんだね? 永遠の孤独が、あるかもしれないんだよ?」
ブラックホールからの声が響く。
「もう決めたよ。後悔なんてしない」
ミルキィが力強く答えた。




