第九十一話 かつての恐怖
第一幕 かつての恐怖
「ゴ、ゴロンガーが、また出たぞー!」
住民が、慌てふためきながら、逃げ惑っている。
その先には、分厚い装甲に覆われた、巨大な甲虫のような生き物が、のっそりと歩き回っていた。
「ゴロンガー……」
アストラの表情が、僅かに強張った。
「知ってるんですか?」
「昔から、この辺りに住み着いてる、害獣です。……小さい頃、私、あれが、大の苦手で」
アストラが緊張の面持ちで語る。
「そうなんですか?」
「大きな図体で、突然、物陰から出てくるので……。子供の頃は、本気で、泣いて逃げてました」
その告白に、ウェルが、思わず微笑ましそうな顔をする。
第二幕 あっさりとした退治
「――今の私達なら、問題ないですよね」
アストラが、静かに、構えを取った。
「はい。行きましょう」
二人は、軽やかに、ゴロンガーへと接近する。
「アストラルクランプ」
放たれた一撃が、ゴロンガーの装甲を、正確に打ち抜いた。
「グオオオオ!」
怯んだところに、ウェルの鋭い蹴りが、追い打ちをかける。
あっという間に、ゴロンガーは、大人しくなり、のろのろと森の奥へと退散していった。
「あんなに、怖かったのに……。今は、こんなに、あっさり……」
アストラが、感慨深そうに呟く。
「アストラちゃん、すっかり、頼もしくなって!」
駆けつけた住民達が、口々に、感嘆の声を上げた。
第三幕 極めつけの暴露
「見違たよアストラ、昔なんてさ――」
その中の一人、幼馴染らしき人物が、思い出したように、笑いながら話し始める。
「アストラ、昔、宿題やってきたのに、忘れて叱られそうになった時、めちゃくちゃ真顔のまま、涙目で、私に写させてって頼んできた事、あったよね」
「え……」
アストラの動きが、ぴたりと止まる。
「表情は、全然崩さないのに、目だけウルウルさせて、『お願い、写させて。今後の信頼関係の為にも』とか、大真面目に言うから、笑いを堪えるの、大変だったよ」
「そ、それは……!」
アストラは、耳まで真っ赤になりながら、絶句していた。
「あはは……! アストラさんらしい、エピソードですね」
ウェルが、堪えきれず、声を上げて笑った。
第四幕 ウェルの優しさ
「も、もう、勘弁してください……!」
アストラが、両手で顔を覆いながら、消え入りそうな声で呟く。
「大丈夫ですよ」
ウェルが、優しく声をかける。
「そういう、格好つけられない一面があるからこそ、アストラさんは、今も、誰よりも一生懸命なんだと思います」
「ウェル、さん……」
その言葉に、アストラは、少しだけ、肩の力を抜いた。
「格好悪いところも、含めて――僕は、今のアストラさんが、好きですよ」
その、さりげない一言に、アストラの頬が、今度は別の理由で、赤く染まっていく。
「な……。そういう事、不意打ちで、言わないでください……」
二人の間に、これまでとは、少し違う、柔らかな空気が流れ始めていた。
(つづく)




