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第八十一話 届いた拳

第一幕 感じ取ったもの

「――お前にも、何か、あったんじゃないか」

 キャンの問いかけに、クレドは、多くを語らなかった。


 だが、その拳の中に、キャンは、確かな何かを感じ取っていた。


(コイツ……。ただ、力を振りかざしてるだけじゃ、ねえ)


 言葉にはならない、けれど、確かに伝わってくるもの。


 深い孤独と、譲れない痛みが、拳の重さの中に、静かに滲んでいた。


第二幕 揺るがぬ想い

「クレド」

 キャンが、静かに、しかし力強く、名を呼んだ。


「お前が、何を見てきたのか、俺には、全部はわからねえ。それでも――」


「何が、言いたい」


「お前の拳、ちゃんと、届いてるぜ。だから――俺の拳も、ちゃんと、受け止めてくれ」


 その言葉と共に、キャンは、渾身の一撃を、放った。


「くっ……!」

 クレドが、それを、真正面から受け止める。


「――俺の拳はな」


クレドが、静かに、拳を構え直す。


「しがらみを消し飛ばし、運命そのものを叩き潰す」


 互いの拳が、激しくぶつかり合った、その瞬間――


第三幕 拮抗の果てに

 二人の力は、ほぼ互角だった。

 だが、僅かに、キャンの一撃が、クレドの防御を上回った。


「ぐっ……!」

 クレドが、大きくよろめき、片膝をつく。


「そこまでだ、クレド」

 キャンが、静かに、拳を下ろした。


「……なぜ、止める」

 クレドが、掠れた声で、そう問いかける。


「とどめを、刺せばいいだろう」


「バカ言うな」

 キャンが、小さく笑った。


「俺は、お前を、殺したいわけじゃねえ。ただ――俺の想いが、ちゃんと届いたか、確かめたかっただけだ」


第四幕 拳の中の対話

「……お前の拳は」


 クレドが、片膝をついたまま、静かに呟いた。


「思ったより……。重かったな」


「へへ、そりゃどうも」

 キャンが、荒い息のまま、それでも、優しい笑みを浮かべた。


「なあクレド。今すぐ、わかり合えるとは、俺も思ってねえ。でも――お前の中にある痛みは、確かに、俺に届いた」


「……」


「だから、いつか、ちゃんと、話せる日が来るといいなって、思ってる」


 クレドは、何も答えなかった。


だが、その瞳には、これまでの戦いの中で、初めて見せる、静かな戸惑いの色が浮かんでいた。



 周囲では、依然として、混沌とした争いが続いている。


 だが、この一角にだけは――確かに、何かが、静かに通じ合った瞬間があった。



 それが、この長い対立を終わらせる、小さな、けれど確かな一歩になるのかもしれなかった。

(つづく)


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