第七十九話 声なき者の記憶
第一幕 問いかけ
「お前にも……。何か、あったんじゃないか」
キャンが、荒い息のまま、静かに問いかけた。
「力に呑まれた奴は、引き返せねえとこまで、いっちまうぞ」
その言葉に、クレドの拳が、僅かに止まった。
「――力を証明できないと、皆が泣く世界がある」
クレドが、静かに、そう切り出した。
「お前には、わからないだろうな」
その声と共に、彼の脳裏に、遠い記憶が、鮮やかに蘇っていく。
第二幕 声なき者だった日々
かつて、クレドは、ファントム銀河に存在する、小さな惑星の戦士だった。
その星には、厳しい階級格差があった。どんな信念も、どんな理論も、力のない者の声は、瞬時にかき消される。
「黙って、働け」
「お前の意見なんて、聞く価値もない」
力のない低階級の存在は、間違っていると思う思想にも、ただ頷く事しか許されなかった。
(俺は……。声すら、上げられないのか)
少年だったクレドは、その理不尽さに、深い絶望を抱えていた。
第三幕 力による証明
だが、ある時、クレドは、力を見せる大会――巨大な闘技場での戦いに、参加する道を見出した。
対戦相手を倒す事で、初めて、自分の存在が、認められる。
「勝った……! また、勝った……!」
百戦以上を勝ち抜いた頃、クレドは、ようやく、上層部にも意見を聞いてもらえるようになっていた。
だが――結局、彼は、上層部にはなれなかった。
腕っぷしだけの人間には、決して開かれない扉があった。
「なぜだ……! これだけの力を、示したのに……!」
その理不尽さに、クレドの中で、何かが、静かに、しかし確実に変わっていった。
第四幕 支配者への道
より大きな争いに身を投じ、戦果を上げ、名を馳せたクレドは、やがて、反乱分子達と共に、上層部の一部を打ち倒す。
「力のない者の声は、かき消される。本来、耳を傾けねばならなかった者を見殺しにして――何が、正義か!」
己の正義を貫き、クレドは、他の上層部をも打ち倒し、ついに、星の支配者となった。
だが――皮肉な事に、クレドもまた、抗う者の意見を封じ、己の信念と正義だけを貫く支配者になっていた。
「これも……。仕方のない事だ」
その言葉を、自分自身に言い聞かせながら。
第五幕 心を渡された日
あまりに強大な力を持つに至った彼を見かねて、星の守り神が、クレドの前に降り立った。
「クレド。心の力を、取り戻して下さい」
その説得に、クレドは、怒りを露わにした。
「心で救えなかった事が、この星には、多すぎる! 事実、これまで、幾度もの戦争が起きた! 俺だって、血で血を洗うしかなかった!」
「!」
「あんたが……! さぞや優しい星にしてくれた、おかげでな!」
その痛烈な糾弾に、星の守り神は、返す言葉を失った。
そして――静かに、自らの持つ、守り神としての心を、クレドへと渡した。
「――どうか、これからは、その心と共に」
「な……」
クレドの心に、久しく忘れていた、静かな光が戻ってくる。
だが、それは、彼を優しさへと導く光ではなかった。
「俺には……。もっと、守るべき存在がいる。この力は、より正しい事に、使わなければならない」
新たな使命感に燃えたクレドは、星の守り神から、宇宙に存在するというスターナイツの試験の話を聞き、故郷の星を守り神に託し、宇宙へと飛び立った。
皮肉な事に――クレドが去った後も、故郷の惑星では、今日もなお、争いが続いていた。
(つづく)




