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第七十五話 分かたれる理念

第一幕 定例会合

「――それでは、各地の治安状況について、報告をお願いします」


 銀河各地から集まったスターナイツ達を前に、ミルフィーが、会合の開始を告げた。



「うちの方は、特に問題ありません」


「そちらは、順調そうですね」



 いつも通りの、和やかな報告が続く中、ミルキィが、明るく手を挙げた。



「はい! 私からも報告です。今回、災厄生命体を十体、改心させて逃がしたんですけど――その内の一体は、生まれた星に帰って、争いもせず、平和に暮らしてるみたいです!」



「それは、良い話ですね」


 いくつかの声が、賛同するように上がった。

 だが――


第二幕 異論

「――それは、単なる偶然だろう」


 静かな、しかし鋭い声が響いた。



 声の主は、中性的な顔立ちに、青いライダースーツを纏った青年――クレドだった。



「もし、逃がした残りの九体が、惑星に帰って大量虐殺をしたら――お前は、その責任を取れるのか?」



「うーん……。力と恐怖で抑え付けても、新しい争いが生まれるだけだよ」

 ミルキィが、真っ直ぐに反論する。


「力を持った者が、それを正しく導くべきだ。それが、俺の考えだ」

 クレドの言葉に、会場の空気が、一気に張り詰めていく。



「ミルキィさんの言う通りだと思います」


「いや、クレドさんの意見も、無視できない」



 次第に、その場のスターナイツ達が、二つの理念の間で、静かに分かれ始めていった。


第三幕 問いかけ

「――ミルフィーさん」

 クレドが、鋭い視線を、ミルフィーへと向けた。


「あなただって、世の中、綺麗事だけじゃどうにもならないと、知ってるはずだ。なのに、どうして、俺達の意見を優先しないんだ」



「その意見について、頭ごなしに抑え付けても、意味がありません」

 ミルフィーが、静かに、しかし確かな重みを持って答える。


「世の中の汚れを受容し、その上で解決を考えていく事と、世の中の汚れを認めて、力で封圧する事は――似ているようで、全く違うものです」


(あの子が、泣きながら言ってたわね……。クルーンがいなくなったら、心に穴が空くの、って)


 その言葉には、かつての、妹との衝突の記憶が、静かに重ねられていた。



 だが、その場に、更なる火種が投げ込まれる。


「――待ってください」

 一人のスターナイツが、静かに口を開いた。


「クレドさんは、対話が一切成立しなかった敵と、激闘の末に消滅させています。その戦いで、私達の仲間が――一人、命を落としました」



 会場が、静まり返る。



「そんな敵を、改心したからと言って許したら……。殺された者の家族や友人は、浮かばれるんですか」


 更に、別のスターナイツが、重い声で告げた。


「以前、消滅させた敵の息子が、力をつけて、復讐に来た事もあります」


 会合は、収拾のつかない混沌へと、急速に飲み込まれていった。


第四幕 涙の理由

「笑顔を作るには、泣顔が必要だ!」

 クレドが、力強く言い放つ。


「誰かが笑う為には、誰かが泣かねばならない!」



「そんな事、ないよ」

 ミルキィが、はっきりと、それに反論した。


「笑顔には、笑顔が集まるんだよ。誰かを想う気持ちが、笑顔を作るの」


「――お前が食べた物も、生きていた。お前が笑顔になる為に、泣いたんだ」

 クレドが、静かに、そう切り返す。


「それは、今の話とは違うよ」

 ミルキィは、真っ直ぐに、クレドを見据えた。


「それに――私達は、貰った命の分まで、強く生きていくの」

 その揺るがない答えに、クレドは、一瞬、言葉を失った。


「スターナイツ同士なのに、どうして、そんなに、いがみ合うの……」

 その声は、仲間同士が争わなければならない事そのものへの、深い哀しみだった。


「や、やめろよ……。そんな悲しそうな顔するなよ……」

 クレドが、僅かに動揺しながら、視線を逸らした。


(お前の悲しむ顔は……。見たくないんだよ)


 その葛藤は、誰にも気づかれる事なく、静かに、彼の内側だけに留められた。


「笑顔の為に、誰かが泣く事を考えたら」

 ミルキィが、静かに、それでいてはっきりと続けた。


「争いは、ずっと、続いていくよ」


「それに――今、クレドだって、笑ってないよね」


 その一言に、クレドは、思わず息を呑んだ。



 困惑したまま、何も言い返せずにいる自分自身に、今更ながら気づかされたかのように。

 そして――その均衡を破るように、一人のスターナイツが、感情のままに拳を振り上げた。



「もう、我慢できねえ!」



 その一撃をきっかけに、会場は、一気に、争いの渦へと呑み込まれていった。



 心を信じる者と、力を信じる者――スターナイツは、ここに、二つに分かたれてしまった。

(つづく)


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