第六十八話 誰も知らない涙
第一幕 誰もいない場所で
皆が、静かに眠りについた夜。
ミルフィーは、一人、白鳥座銀河の外れに佇んでいた。
もう、誰の目もない。ここでなら、ようやく、肩の力を抜く事ができた。
「……」
ミルフィーは、静かに空を見上げる。
そこには、もう、赤い星の姿はなかった。ただ、穏やかな星々の輝きだけが、静かに広がっていた。
第二幕 独白
「ラクリマ……」
その名を呟いた瞬間、堪えていたものが、静かに溢れ出した。
ぽろぽろと、涙が零れ落ちていく。
「あなたも……。本当は、辛かったよね……」
誰にも聞かせるつもりのない、小さな声だった。
「私は……。強くなければならない……」
拳を握りしめながら、ミルフィーは、震える声で続けた。
「あの英雄の為にも……。あの悲劇を、私達が繰り返さない為にも……」
その言葉には、これまで誰にも見せた事のない、深い孤独が滲んでいた。
(――もし、この重さを、私一人で抱えきれなくなったら)
(その時、ミルキィは……。あの子も、いつか、こんな風に……)
そこまで考えて、ミルフィーは、はっと自分の思考を振り払うように、小さく首を振った。
「……ううん。そんな事、考えちゃダメね」
規格外の力を持ち、皆から頼られる姉として。だが、その重責を、誰かに分かち合ってもらう事は、彼女自身、これまで許してこなかったのかもしれない。
第三幕 目撃者
その光景を、少し離れた場所から、クルーンが静かに見つめていた。
偶然、目が覚めて、外の空気を吸いに出てきたところだった。
「……」
クルーンは、声をかけようとして、そっと、その手を止めた。
(今は……。そっとしておいた方が、いいのかもしれない)
ミルフィーの背中には、誰かに慰められる事を、まだ望んでいないような、そんな静かな強さと、脆さが同居しているように見えた。
クルーンは、静かに、その場を後にした。
その胸の中にだけ、そっと、今夜見た光景をしまい込んで。
第四幕 静かな朝
翌朝、いつも通りの、明るいミルフィーが、皆の前に姿を現した。
「さあ、今日は、地球に戻りましょうか」
「うん! お姉ちゃん、お疲れ様!」
ミルキィが、明るくそう答える。
「ふふ、あなたにお疲れ様なんて言われる筋合いは――」
いつも通りの、軽口が飛び交う朝だった。
クルーンは、そんなミルフィーの姿を見つめながら、静かに、そっと微笑んだ。
(大丈夫。あなたは、一人じゃないですよ)
その想いは、言葉にはならないまま、静かに、クルーンの中だけに留められた。
悲しみを乗り越えた仲間達は、また新たな一歩を踏み出していく。
銀河の静けさの中、超戦士スターナイツの物語は、確かな絆と共に、これからも続いていく。
(第十部・完)




