第六十五話 届かない言葉
第一幕 対話の不成立
「――ラクリマ、聞こえますか」
アストラが、慎重に、赤い星へと呼びかけた。
だが、返ってくるのは、言葉ではなかった。ただ、脈打つような、赤い光の明滅だけが、静かに応答していた。
「私達は、あなたを傷つけたくありません。話を――」
その言葉すらも、赤い星へと吸い込まれるように、消えていった。
「言葉が……。届いてない……。それどころか」
クルーンが、青ざめた顔で呟く。
「言葉そのものが、吸収されてしまってる……!」
第二幕 苦戦
「くっ……!」
ミルキィが、放たれる赤い波動を、必死に弾き返す。
だが、その一撃を受ける度に、辺りには、名状しがたい感情の奔流が、津波のように押し寄せてきた。
「悲しい……。怖い……。寂しい……」
クルーンが、涙を滲ませながら、震える声で呟く。
「これは……。ラクリマの、感情そのもの……!」
アストラも、押し寄せる感情の渦に、必死に耐えていた。
「怒り、そして……。優しさ、愛……」
ホエードもまた、その圧倒的な情緒の奔流に、僅かに顔を歪めていた。
一瞬、視界の端に、まるで別の記憶が滲むように、優しい青い光が過ぎった。
誰かの手を取り、静かに涙を流す、若き日のラクリマの姿。
だが、それは瞬く間にかき消え――再び、赤い光の奔流だけが、辺りを支配した。
力だけでなく、感情そのものが、直接、心に叩きつけられてくる。これまでのどんな敵とも違う、精神を蝕む戦いだった。
第三幕 キャンの動揺
「くそ……! なんなんだよ、これは……!」
キャンが、荒い息のまま、地面に膝をついた。
「キャン、大丈夫か!?」
ゼラが、心配そうに駆け寄る。
「わからねえ……。だが俺には、コイツの気持ちだけは、わかっちまう……」
キャンの声が、震えていた。
「誰かを助けたくて、助けたくて……。それが、いつの間にか、自分でも制御できなくなって……」
その言葉には、かつて自分自身が味わった、あの闇落ちの記憶が、色濃く滲んでいた。
「俺……。もう、これ以上、戦えねえかもしれねえ……」
「キャン……!」
「スターナイツなんて……。もう、辞めたい……」
キャンは、震える声で、そう吐き出した。
誰も、その言葉を、すぐには否定できなかった。
第四幕 膨らむ絶望
「くっ……!」
その隙を、ラクリマの一撃が、容赦なく貫いた。
「ぐああっ!」
キャンが、大きく吹き飛ばされる。
「キャン!」
ゼラが、悲痛な声を上げた。
地に伏したまま、キャンは、ただ、虚ろな目で赤い星を見上げていた。
「なあ……。お前も、もう、疲れちまったんだろ……」
その呟きは、敵に向けられたものなのか、自分自身に向けられたものなのか、もはや、判然としなかった。
絶望的な戦いの中、皆の心にも、静かに、深い翳りが差し込み始めていた。
(つづく)




