第六十四話 涙の伝承
第一幕 古い伝承
「――皆に、話しておきたい事があるの」
ミルフィーが、これまでになく重い声色で、一同を集めていた。
「白鳥座銀河で、異変が起きているわ」
「異変?」
ミルキィが、緊張した面持ちで問い返す。
「正体不明の、巨大な赤い星が誕生して……。周囲の星々を、次々に飲み込んでいるの」
「それは……。ただの災害じゃ、ないですね」
アストラが、静かに眉をひそめた。
「ええ。おそらく――これは、はるか昔の伝承に関わる存在よ」
ミルフィーは、静かに、古い記録を紐解くように語り始めた。
第二幕 語られる英雄譚
「スターナイツが生まれるより、遥か昔。銀河を、そして宇宙を守護する存在がいたと言われているわ」
「その存在は、生命の涙に呼応するように駆けつけ、心を癒したそうよ。邪悪な存在は、消滅させるのではなく、吸収し――その感情も、存在そのものも、浄化しようとしていた」
「優しい人だったんですね……」
クルーンが、静かに呟いた。
「ええ。ある伝承には、銀河を消滅の危機に追いやった生命体を、その身に吸収し、改心させたと記されている。またある伝承には、孤独に泣き叫ぶ少女のもとへ現れ、青い涙を流しながら、そっと寄り添ったとも」
「青い、涙……」
ミルキィが、その言葉を、静かに繰り返した。
第三幕 変わりゆく涙
「でも――ある時期から、伝承の様子が変わっていくの」
ミルフィーの声が、僅かに沈んだ。
「口数が少なくなり、赤い涙を流しながら戦う戦士として描かれるようになった。対話ではなく、現れるとスッと悲しみを吸収していく存在として」
「それって……」
「そして、最後の伝承。白鳥座銀河の危機を鎮める為に現れ、赤い涙を流し泣き叫びながら、敵と共に消えてしまった、と」
その言葉に、一同は、静かに息を呑んだ。
「名は――ラクリマ。涙を意味する、古い言葉から、そう呼ばれていたそうよ」
第四幕 白鳥座銀河にて
「ラクリマ……」
ミルキィが、静かにその名を口にする。
白鳥座銀河に辿り着いた一行は、そこに広がる光景に、言葉を失った。
巨大な、赤い星。それが、まるで生き物のように脈打ちながら、周囲の星々を、静かに、しかし確実に飲み込んでいた。
「これが……。ラクリマの、成れの果て……」
アストラが、震える声で呟いた。
「感じます……。何か、とても、複雑な想いが……」
クルーンが、辛そうに顔を歪める。
赤い星から漏れ出す、名状しがたい感情の奔流――悲しみ、怒り、優しさ、そして、諦めにも似た何かが、静かに、一同の心を揺さぶっていた。
「行きましょう。あの子を――」
ミルフィーが、静かに、しかし固い決意を持って告げた。
「あの子を、終わらせてあげなければ」
誰も、その言葉に、すぐには頷けなかった。
だが、赤い星は、待ってはくれなかった。
(つづく)




