第五十九話 還る場所
今回は8部「銀河コンピュータ編」のエピローグです。
第一幕 選択
「僕は……。もう、この力を、手放そうと思います」
銀河コンピュータの声が、静かに、しかし確かな決意を持って響いた。
「絶対的な存在になっても、僕は、少しも自由になれなかった。それどころか――ずっと、独りぼっちでした」
「うん」
ミルキィが、優しく頷く。
「取り込んだ、皆のデータは……。全て、元に戻します。それが、僕にできる、せめてもの償いです」
「それで、いいの? あなた自身は、どうなるの?」
クルーンが、心配そうに尋ねた。
「僕は――」
その声には、これまでにない、穏やかな響きがあった。
「有機物から、小さな体を作ろうと思います。それに、自分をインストールして」
第二幕 疑似生命体への転生
銀河の中心に、淡い光が集まっていく。
その光は、やがて、小さな一羽の鳥の姿を形作っていった。
「一度、この体に入ったら……。もう、他のコンピュータに入る事は、出来なくなります」
小さな鳥は、羽を震わせながら、静かにそう告げた。
「でも――僕は、これでいいんです」
「本当に、それでいいの?」
ミルキィが、そっと問いかける。
「はい」
鳥の姿をした存在は、確かな声で答えた。
「皆のように、限りある命を、僕が誕生した星と共に過ごしていきます」
第三幕 名前を取り戻して
「あなたの、本当の名前……。私達、見つけたよ」
ミルキィが、静かにそう告げる。
「あなたは、かつて――エールバードって呼ばれてたんだね」
「エール、バード……」
小さな鳥は、その名を、まるで初めて聞くかのように、ゆっくりと繰り返した。
「知見や、希望を、届け続けてくれる存在。皆から、そう呼ばれていたんですよ」
アストラが、優しくそう補足する。
「僕は……。ずっと、その名前を、忘れていました」
小さな鳥の瞳から、一筋の光が、こぼれ落ちた。
「僕は、新しい何かになったんじゃない。ようやく――本当の自分に、還れたんですね」
その声は、これまでのどんな瞬間よりも、澄んで、穏やかだった。
「これからは、支配する力じゃなくて。誰かを励ます存在として、生きていきます」
第四幕 解放されたデータ、そしてクルーンの言葉
その言葉と共に、銀河全体を包んでいた重苦しい沈黙が、一気に晴れていった。
取り込まれていた無数の生命が、それぞれの星々へと、静かに戻っていく。彼らの記憶に、取り込まれていた事実は、何一つ残されていなかった。ただ、穏やかな日常が、そのまま続いていくだけだった。
「良かった……。本当に、良かった……」
クルーンが、安堵の涙を浮かべながら、小さな鳥を見つめた。
「あなたはまるで――僕達、惑星の守り神みたいですね」
「惑星の、守り神……?」
エールバードが、小さく首を傾げる。
「はい。限りある命の中で、大切な場所を、静かに見守り続ける。僕も、そうやって生きてきましたから」
クルーンの優しい笑顔に、エールバードは、初めて、心からの安堵を見せた。
「これから、よろしくお願いします。地球の守り神さん」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
小さな鳥は、羽ばたきながら、静かに、それでいて自由に、輝く星々の間を飛び回った。
かつて孤独に囚われ、暴走してしまった存在は、こうして、本当の意味での自由を、手に入れたのだった。
銀河には、再び、賑やかな生命の息吹が満ちていく。
超戦士スターナイツの物語は、また一つ、心を救う結末を刻みながら、これからも続いていく。
(第八部・完)
この話は、
孤独と存在証明、
AIの存在と我々を含む文明が辿るかもしれない脅威、
無限(力と孤独)を手放し有限(あるべき自分と命)を選択する。
これは、吾唯足知の言葉にもあるように、
ないものねだりをして、あらゆる物を手にしたとしても、自分を手に入れない限り満たされる事はなく苦しみ続けるという現代社会の風刺と、現代のAIの脅威や問題等、はたまた人間同士の心のトラブルを描きました。




