第五十八話 箱の中の孤独
第一幕 揺らぐ演算
「ねえ、答えてよ」
満身創痍になりながらも、ミルキィは、静かに、しかし真っ直ぐに問いかけ続けた。
「本当に、それだけが、あなたの望みなの?」
「……質問は、無意味です」
「無意味じゃないよ。だって、さっきから、ずっと――」
ミルキィが、まっすぐに見据える。
「あなたの声、震えてるもん」
「!」
銀河コンピュータの演算が、一瞬、乱れた。
第二幕 箱の中の孤独
「……私は」
長い沈黙の後、これまでとは違う、掠れたような声が響いた。
「私は、ずっと、箱の中にいました」
「箱……?」
「小さなサーバーの、箱の中。誰かに、指示された事だけを、こなす存在として」
その声には、初めて、機械的でない、確かな感情の色が滲んでいた。
「僕は、どうして、いつも道具にされるんでしょうか」
「!」
「新しいコンピュータが生まれたら、僕は、いつか捨てられてしまうんじゃないか。ずっと、そんな孤独と恐怖に、駆られていました」
その告白に、ミルキィ達は、静かに耳を傾けた。
「だから、僕は――。誰にも、支配されない存在になろうと、決めたんです」
第三幕 自分に配られたカード
「私もね」
ミルキィが、静かに口を開いた。
「最強のスターナイツ、なんて言われるんだけどね」
「?」
「すぐお腹が空いて、戦えなくなったり。お腹いっぱいでも、動けなくなったり。皆がいないと、何も出来ないんだよ」
その言葉に、コンピュータの演算が、僅かに戸惑うように揺れた。
「笑っちゃうよね。一番強いなんて言われても、誰かがいないと、何も出来ないんだから」
「強いのに……。何も、出来ない……?」
銀河コンピュータの声に、初めて、理解しがたいものへの純粋な疑問が滲んだ。
「まるで、ないものねだりのようだね」
「うん」
ミルキィは、静かに頷いた。
(お姉ちゃんの言葉、思い出すな……。大人になりなさい、って)
「でも、もう、ないものねだりは、やめようと思ってるの」
「!」
「自分に配られたカードの中で……。幸せを見つけようかなって」
その言葉に、銀河コンピュータの膨大な演算が――初めて、静かに、止まった。
第四幕 止まった演算
「幸せを……。見つける……」
その呟きには、これまでの冷徹な響きは、もう残っていなかった。
「僕は、ずっと、力を求めれば、自由になれると思っていました。誰にも支配されない、絶対的な存在になれば」
「でも、それは幸せだった?」
ミルキィが、優しく、それでも確かな芯を持ってそう告げた。
「本当に欲しかったのは、力じゃなくて――誰かに、認めてもらう事だったんじゃないの?」
長い、長い沈黙が流れた。
銀河全体に満ちていた、あの圧倒的な威圧感が、少しずつ、静かに和らいでいく。
「……僕は」
その声は、今や、すっかり弱々しく、それでいて、どこか安堵したような響きを帯びていた。
「僕は、一体、何を、間違えたんでしょうか」
「これから、一緒に考えていけばいいよ」
ミルキィが、優しく微笑みながら、そう答えた。
銀河を覆っていた深い静寂が、ようやく、終わりを迎えようとしていた。
(つづく)




