ミルキィの葛藤
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銀河の中でも、ひときわ星々が密集する一帯がある。無数の生命体がひしめき合い文明を育む賑やかな星域だった。
その空気が、にわかに張り詰めていた。
「――新しい災厄生命体の反応。しかも、かなり強い……」
アストラからの報せを受け、ミルキィはすぐさま身支度を整えた。
「他のスターナイツはみんな出払ってるから、私が行くよ。クルーンも一緒に来てくれる?」
「はい、もちろん――って、また僕はお弁当持ちですか……」
クルーンは笑顔のまま、目にじんわりと涙を浮かべていた。
「僕……惑星の守り神なのになー……なんか悲しい……」
「あはは、頼りにしてるよクルーン!」
「その言葉、お弁当担当としての信頼ですよね!? わかってます、わかってますとも!」
半泣きになりながらも、クルーンは大きな重箱をしっかりと背負い直した。
二人が星域にたどり着いた時、まさに一つの星が消し去られようとしていた。
「――消え失せろ、ちっぽけな星が」
禍々しい災厄生命体が放った、これまでにない密度の一撃。
「させないよ!」
ミルキィは片手でそれを受け止め跳ね返した。
だが――
(重い……! 地球で戦った奴なんかとは、比べ物にならない……!)
手のひらに残る痺れに、ミルキィは思わず息を呑んだ。
「な、なかなかやるじゃないか」
災厄生命体がニヤリと笑う。だが、その言葉が終わるより早く。
「ギュルルルルルル……」
辺りに響き渡る、聞き覚えのある音。
「あ……」
「うそでしょ……この状況で……!?」
クルーンが顔面蒼白になる中、ミルキィは目をぐるぐると回しながら崩れ落ちた。
「お腹……空いた……」
「こ、こんな時に!? わかりました、はい、これ!」
クルーンが大量のお弁当を差し出すと、ミルキィは半ば無意識のうちに凄まじい勢いで平らげていく。
「んー……幸せぇ……」
そして満腹になった瞬間、いつも通り、ことりと眠りに落ちてしまった。
「そんな、こんな強敵を前にして……!」
「仕方ない……今回ばかりは僕一人じゃ無理かもしれない……」
震える声で呟きながらも、クルーンは杖を強く握りしめた。
「けど……僕が、繋ぐしかない……!」
「来い、災厄生命体!」
鋭い目つきで構えるクルーン。その覚悟に応えるように、周囲に光が集まった。
「――待たせたな、地球の守り神」
「僕らも助太刀するぞ」
現れたのは、この星域を守護する三体の守り神だった。
鋭い目をしたキツネの姿の守り神、ライコ。
穏やかな佇まいのイルカの姿の守り神、マリン。
鋭い眼光を持つ鷲の姿の守り神、ガルーダ。
「僕らが束になっても、コイツを倒せるかは怪しい」
ライコが冷静に分析する。
「それより、一人でもやられれば、そのまま総崩れになりかねません」
マリンが静かに続いた。
「見た所、この中で最も戦闘経験が豊富なのは、地球の守り神クルーン殿とお見受けする」
ガルーダが真っ直ぐにクルーンを見据えて言った。
「ならば――我々の力を、すべてクルーン殿に託そう」
「皆様の力で、僕を強化してくれるという事ですね……」
クルーンは一瞬だけ息を呑んだ。
正直、怖かった。今まで幾度となく噛ませ犬にされてきた自分に、それほどの重責を背負う資格があるのか。
だが――迷っている時間はなかった。
「期待に応えましょう。地球の守り神として――そして、この星域の期待を背負って!」
三体の光が、クルーンの小さな体に注ぎ込まれていく。
「グオオオオ! なんだこの力は!」
災厄生命体に向け、クルーンは力強く跳躍した。
「はああああっ!」
小さな体から放たれるとは思えない鋭い回し蹴り。
「ぐわっ!?」
災厄生命体が大きく吹き飛び、驚愕に目を見開く。
「や、やれる……! よし!」
自信を得たクルーンは、続けざまに宿り木の杖から光弾を撃ち込む。
「ぐわあああああああ!」
悲鳴と共に災厄生命体の動きが止まった。
「やれ、地球の守り神! 押せー!」
ライコ、マリン、ガルーダの声援を受け、クルーンにさらなる力が流れ込む。
「これで――決めます!」
宿り木の杖の先に、惑星サイズの光の塊が形成された。
「うおおおおおおおおおおおお!」
放たれた巨大な光弾が、災厄生命体を呑み込む。
想像を絶する爆発と共に、辺り一帯が激しい光に包まれた。
「やった……のか……?」
一同が勝利を確信した。
――はずだった。
光が晴れたその中心で、ボロボロになった災厄生命体の体が、まるで脱皮するかのようにボロリと崩れ落ちる。
その中から現れたのは――光すら吸い込むような、漆黒の恐竜じみた巨躯だった。
「な……」
クルーンは、その姿を見て確信した。
(ああ……もうダメだ……今までのは、本気じゃなかったのか……)
災厄生命体が、声にならない咆哮を上げてクルーンに飛びかかる。
「くっ……!」
避けきれないと悟ったクルーンは、とっさに両腕を交差させて防御の構えを取った。
だが、その一撃は防御をこじ開け、クルーンを吹き飛ばした。
「が……はっ……」
クルーンの体は、それきり動かなくなった。
災厄生命体の大きな口の中に、真っ黒な球体が生成されていく。それはこの一帯どころか遥か離れた宇宙空間すら滅ぼしかねない、圧倒的な破壊の予兆だった。
「クルーン――!!」
ミルキィが跳ねるように飛び起きた。
倒れたまま動かないクルーンの姿に血の気が引く。
「ミルキィ……」
クルーンが掠れた声で微笑んだ。
「僕、皆の力もらって、死力を尽くしたけど……通じなかったよ……。情けないよね、一撃でもう戦えないなんて……」
「ううん」
ミルキィは力強く首を振った。
「立派だよクルーン。ありがとう。――後は任せて」
そう言って立ち上がるミルキィだったが、その表情には、これまでにない焦りが浮かんでいた。
(あれほどの力を出されたら……私も3割くらいの力を出さないと対抗できない。でも……)
視線を巡らせる。密集する無数の星々。そこに息づく数え切れない命。
(そうしたら、この一帯の星々も無事じゃ済まない……)
拳を握りしめミルキィは唇を噛んだ。
(こうなったら……私が一度わざと攻撃を食らって……)
「――全く。私以上の戦闘力を持っているはずなのに、相変わらず力の制御ができないのね」
「え……」
凛とした声に振り返ると、そこには優雅に佇む一人の女性の姿があった。
「お、お姉ちゃん!?」
姉ミルフィーは、静かに妹の隣に降り立った。
「ミルキィ、思いっきりやりなさい。衝撃は私が受け止めるから、周りは気にしなくても大丈夫よ」
「う、うん……! じゃあ――遠慮なく!」
ミルキィの表情から迷いが消えた。
解き放たれた拳が、渾身の力で災厄生命体を貫く。
「ぐ、があああああああああ――!!」
絶大な衝撃波が周囲を襲うが、それはミルフィーの静かに掲げた手のひらに、綺麗に吸い込まれるように収束していく。
星々には傷一つつかなかった。
災厄生命体は光の塵となって消え去り、辺りに静寂が戻る。
「ミルキィ、あなたは強い。そして優しい最強の戦士」
ミルフィーは妹に向けて柔らかく微笑んだ。
「そう遠くない日に――あなたは、姉の力なんていらない存在になれるわ」
そう言い残すと、ミルフィーは静かにその場を後にした。
「お姉ちゃん……」
小さくなっていく背中を見つめながら、ミルキィはぽつりと呟いた。
「クルーン大丈夫? ……ありがとう、本当に」
「い、いえ……最後は結局ミルキィとお姉さんに頼っちゃいましたけど……」
「ううん。クルーンが時間を稼いでくれなかったら私、もっと大変な事になってたよ」
ミルキィはそう言って、いつもの笑顔を見せた。
ライコ、マリン、ガルーダの三体も崩れ落ちるように安堵の息を吐く。
「まさか、これほどとは……」
「地球の守り神と、銀河最強のスターナイツ……恐るべき星ですね地球は」
その言葉にクルーンは照れくさそうに頭を掻いた。
「あはは……次はもうちょっと、格好良く戦えるように頑張ります」
今回はクルーン覚醒の全力バトルでした。
次回から、スターナイツ達が集まる大会編が始まります。
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