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第三十九話 名刺交換

第一幕 挨拶代わりの一撃

「よし、じゃあ、俺の相手はお前だ!」

 キャンが、やる気に満ちた下っ端社員へと、堂々と歩み寄る。


「お、おう! 望むところだ!」

 社員は構えを取ると、キャンめがけて猛スピードで突進し、鋭い右ストレートを繰り出した。


 パシッ――。


 キャンは、それを左手で難なく受け止める。

(こいつ、できるな)


「強い……! 今まで戦った誰よりも……!」

 社員は、キャンを睨みつけながらも、一抹の不安を滲ませていた。


 シュッ――続けざまに放たれた素早い左フック。


 パンッ!


 キャンはそれを右手で受け止めたが、その手にはじんわりと痺れが残った。

「なかなかやるな」


「手荒いですが、これが我々の挨拶です」


 社員の言葉に、キャンは苦笑いを浮かべた。

「随分と荒い名刺交換になっちまったな」


「私は、営業部のキラと申します。以後、お見知りおきを」


 キャンは、すぐさま後方へ距離を取り、右手を突き出して構える。


「以後なんてねえよ。デストロイファング!」


第二幕 力量を測る一撃

 キャンの言葉と共に、キラを取り囲むように、無数の光る矢が現れた。


「な!」

 キラが驚く間もなく、その矢は一斉に収束するように放たれ、激しい爆発を巻き起こす。


 やがて爆発が収まると、そこにはキラが、左腕を押さえながら立っていた。周囲には、手のひらサイズの、白く輝く無数の板のようなものが浮遊している。


「危なかった。弊社の名刺は、少々頑丈でして。今の攻撃は、これで防ぎました」

 だが、その左腕は、明らかに負傷していた。


「これは、ワタクシの今後の社内評価にも関わりますので――本気を出しますよ!」

 キラが、勢いよくキャンめがけて飛び出す。


 その姿を見ながら、キャンは静かに勝利を確信していた。

(今のデストロイファングは、相手の力量を測る為の牽制技。これで傷を負う程度なら――ミルキィに見せた必殺のエルボーを出すまでもねえ)


第三幕 やる気だけでは、越えられない壁

「やる気があるのはいいがな……」

 キャンは、キラの猛スピードのパンチをひらりとかわす。


 そのまま、するりと背後へと回り込んだ。


「世の中には、やる気だけじゃ、どうにもならない事もあるんだぜ」

 その言葉には、かつて自分自身が言われた、あの痛みに満ちた響きが重なっていた。


だが、今、キャンがそれを口にする意味は、まるで違っていた。


 加減の込められた手刀が、キラの首筋に静かに打ち込まれる。


 言葉を発する間もなく、キラはその場に崩れ落ちた。


「スタートラインも、走る道も、走る速度も、それこそ目指すゴールも――皆、それぞれだ。少し、肩の力抜けよ」

 キャンは、そう語りながら、静かにキラを担ぎ上げた。


第四幕 自分の価値を決めるのは

「こいつを、介抱してやりな」

 キャンは、キラをレギオン達の方へと、そっと放り投げた。


「そんでよ、あんたらも、そいつの事はもっと評価してやれよ」

 放り投げたキラから視線を外し、キャンは、独り言のように呟いた。


「自分の価値を決めるのも――一番知ってるのも、自分なんだぜ」

 その言葉には、どこか寂しげな響きと、確かな優しさが同時に込められていた。


 かつて、同期であるウェルとの差に苦しみ、闇にまで飲まれかけた男が、今、後輩の為に、そっと手を差し伸べている。


 その姿を、遠くから見つめていたウェルは、静かに、そして温かく微笑んでいた。


「キャン……。あなたも、ちゃんと、前を向けているんですね」


 その呟きは、賑やかな戦場の中、誰の耳にも届かないまま、静かに溶けていった。

(つづく)


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