第三十八話 崩れた完璧
第一幕 小悪魔の相手
「さーて、私の相手は、あなたですかー?」
ナビビが、にこにこと笑いながら、アストラの前に舞い降りた。
「はい。私が、お相手します」
アストラは、静かに構えを取る。
「アストラルクランプ、改」
精密に配置された星の一撃が、真っ直ぐにナビビへと放たれる。
「あははっ、頑張りますねー」
ナビビは、軽やかにそれをかわしながら、指先を軽く弾いた。
「――えいっ」
その瞬間、周囲に小規模な爆発が連鎖する。星一つ分にも満たない、けれど確かに人知を超えた威力だった。
「な……!」
アストラの防御が、僅かに崩される。
第二幕 抉られる言葉
「私ー、瞬時に人の心が見えちゃうんです。アストラさんって、理論派なんですね? でも、私みたいな読めないタイプ、苦手そうですねー」
ナビビが、にやにやとしながら、そう茶化す。
「そんな事は――」
「それに、見えましたよー。仲間の方が、闇落ちしちゃった事があるんですって?」
「!」
その一言に、アストラの手が、僅かに止まった。
「言葉で救ったって話、素敵ですよねー。でも――」
ナビビが、にっこりと笑いながら続けた。
「もし、その言葉が届かなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「――っ!」
アストラの中で、何かが、静かに、しかし確実に軋んだ。
「あなたに……。私達の事の、何が――」
これまで保ってきた冷静さが、僅かに乱れ始める。
「あはは、ちょっと意地悪言い過ぎましたかねー」
ナビビは、悪びれる様子もなく笑いながら、次の一撃を放った。
第三幕 崩れた完璧
「くっ……!」
攻撃を受け、アストラは大きく後退する。
「私は……。いつも、冷静に、正しい判断を、しなければ……」
これまで、彼女は常に理知的であろうとしてきた。パーティの頭脳として、感情に流されず、常に最善の選択をする事こそが、自分の役割だと信じてきた。
だが、ナビビの言葉は、その仮面の奥に隠していた、消えない不安を、容赦なく抉り出していた。
「もし、あの時、言葉が届いていなかったら……。ウェルは……」
アストラの瞳から、堪えきれない涙が、一筋零れ落ちた。
「私……。本当は、ずっと、怖かった」
その声は、これまでのどんな戦闘でも聞いた事のない、震えたものだった。
「大切な人を、救えなかったら、どうしようって。ずっと、ずっと……」
張り詰めていた糸が、静かに切れていく。
「あらら、ついに泣いちゃいましたね」
ナビビが、興味深そうにその様子を見つめる。
「でも……」
アストラは、涙を拭いながら、それでも、真っ直ぐに顔を上げた。
「それでも、私は、諦めませんでした」
「?」
「怖くても、不安でも……。私は、あの時、ウェルの隣に立つ事を、選びました。それは、間違いじゃなかった」
アストラの瞳に、再び、確かな光が戻ってくる。
「完璧じゃなくてもいい。それでも、大切な人の為に、立ち向かう気持ちだけは、絶対に本物です」
第四幕 新たな強さ
「――アストラルクランプ、真」
これまでとは違う、感情そのものを力に変えたような、荒々しくも力強い一撃が、ナビビへと放たれた。
「あら……!」
ナビビが、初めて、僅かに表情を変える。
ナビビはとっさに両手を広げると、大爆発を巻き起こしながら離脱する。
「今の一撃、さっきまでと、何か違いますね」
「これが、今の私の――全力です」
完璧である事に縛られていたアストラが、初めて、不完全なままの自分自身を受け入れ、その先に手にした力だった。
「うーん、面白いもの、見せてもらいました」
ナビビが、満足そうに微笑む。
「一応、言っておきますけど。私、まだ本気出してないですからねー?」
「それでも、構いません。今の私は――以前より、少しだけ、強くなれた気がします」
アストラは、涙の跡が残る顔で、それでも晴れやかに笑った。
完璧である事をやめた彼女は、そこでようやく、本当の意味で、仲間達と同じ場所に立てたのかもしれなかった。
(つづく)




