第二十九話 アストラの言葉
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第一幕 対峙、アストラ単騎
「ウェル。私が、あなたを止めます」
アストラが、静かに、しかし確かな決意を持って前へ出た。
「アストラさん……。下がって下さい。あなたまで、傷つけたくない」
ウェルの声には、まだ僅かに、彼自身の優しさが残っていた。だが、その体を包む昏い光は、止まる事なく力を増していく。
「あなたを傷つけたくないのは、私も同じです。だからこそ――私は、私自身の力で、あなたと向き合います」
アストラは、遠く彼方の星々に呼びかけ、幾つもの隕石を周囲へと呼び寄せた。誰の力も借りない、彼女自身の実力だった。
「コメットシュート」
放たれた一撃を、ウェルは危なげなく弾き返す。
「その程度で、僕を止められると思ってるんですか」
「思っていません。でも――何度でも、立ち向かいます」
アストラの瞳に、迷いはなかった。
第二幕 眠気との闘い
「んん……。まだ、体が重い……」
ミルキィが、覚束ない足取りで立ち上がる。
「ミルキィさん、無理しないで下さい」
クルーンが、慌てて支えようとする。
「大丈夫……。今は、動けないなりに、皆を守るから」
空腹から覚めたばかりの体は、まだ本調子には程遠かった。それでも、ミルキィは、ウェルの放つ余波の攻撃から、アストラを庇うように立ちはだかった。
「くっ……!」
直撃を受けた衝撃に、思わず膝が笑う。
「ミルキィさん!」
「大丈夫。……眠くて、動けないけど。それでも、やらなきゃ」
ミルキィは、額に汗を滲ませながらも、なんとかその場に踏みとどまった。
「僕も、負けません!」
クルーンが、杖を構え、飛来する余波を懸命に打ち払う。
二人の必死の奮闘が、アストラの周囲に、僅かな安全な間合いを作り出していた。
第三幕 心の力
「アストラさん、下がって下さい。次で、決めます」
ウェルが、昏い光を全身に漲らせながら、渾身の一撃を構える。
「私は、下がりません」
アストラは、その圧倒的な力を前にしても、動じなかった。
「ウェル。あなたは、いつも自分を、ナンバー2だと卑下していましたね」
「!」
「でも、私にとって、あなたは――いつだって、隣で一緒に戦ってくれる、信頼できる仲間でした」
アストラの言葉に、ウェルの拳が、僅かに揺らいだ。
「ゼノンとの戦いで、共に死力を尽くして戦った時も。大会で、身内同士の対決をした時も。あなたは、いつだって、誰かを守る為に戦っていました」
「僕、は……」
「力の強さで、価値が決まるわけじゃない。あなたがずっと、大切な人達の為に積み重ねてきたもの――それこそが、本当の強さです」
昏い光が、僅かに揺らぐ。
「僕は……。僕は、ただ……」
「怖かったんですよね。追いつけない事が。守りきれない事が」
アストラの声が、優しく、しかし真っ直ぐに、ウェルの中へと届いていく。
「でも、あなたは一人じゃない。私も、ミルキィも、クルーンも――皆、あなたの隣にいます」
「アストラ、さん……」
ウェルの瞳から、少しずつ、昏さが薄れていく。
「資格なんて、誰にも奪えない。それは、私が保証します」
その一言が、決定打だった。
ウェルを包んでいた昏い光が、ガラスが砕けるように、粉々に弾け飛んだ。
第四幕 帰還、そして代償
「――う……」
ウェルが、ふらりとよろめき、その場に崩れ落ちる。
「ウェル!」
アストラが、慌てて彼を支えた。
「僕、は……。一体、何を……」
朦朧としながら目を開けたウェルの瞳には、もう、いつもの穏やかな光が戻っていた。
「大丈夫です。もう、終わりました」
アストラが、安堵の表情で、そう告げる。
「ミルキィさん、クルーンさん……。皆さんに、迷惑を――」
「そんな事、気にしなくていいよ」
ミルキィが、疲れ切った様子ながらも、笑顔でそう答えた。
「あなたが、戻ってきてくれた。それだけで、十分だから」
ウェルは、しばし呆然としたまま、静かに涙を滲ませた。
「ありがとう、ございます……。皆さん……」
辺りには、倒れたキャン、レグルス、ヴェガの姿もあった。彼らもまた、闇の力を使い果たし、静かに意識を失っていた。
「この人達も……。目が覚めたら、ちゃんと話をしましょう」
アストラが、静かにそう呟いた。
長く苦しい戦いの果てに、ようやく訪れた静寂。だが、そこには、まだ拭いきれない苦さと、これから向き合うべき課題が、確かに残されていた。
(つづく)
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