第二十一話 迷いを消して
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第一幕 銀河一の美味しさ
「いただき、ます」
ミルキィは、手の中の果実に、そっと口をつけた。
その瞬間――全身を駆け巡ったのは、これまで味わったどんな料理とも違う、圧倒的な美味しさだった。
「んん……! 美味しい……! 美味しすぎる……!」
目を輝かせながら、ミルキィは夢中で果実を頬張っていく。疲弊しきっていた体の奥底から、途方もない活力が湧き上がってくるのがわかった。
「これが……ギャラクシーフルーツの力……!」
アストラが、その変化を見て息を呑む。
「凄い……! ミルキィの気配が、さっきまでとまるで違います!」
クルーンも、驚きを隠せない様子だった。
食べ終えたミルキィは、大きく息を吐き出すと、全身に漲る力を確かめるように拳を握った。
「ふぅ……! 幸せぇ……! さあ、これで――」
その視線の先で、フルーツを失ったヌルの体が、大きく震え始めていた。
第二幕 鏡写しの敵
「な……」
ヌルの巨体が、黒い靄となって崩れていく。そして、再びその輪郭を結び直した時――そこに立っていたのは、あろうことか、ミルキィと瓜二つの姿をした、漆黒の分身だった。
「これは……」
ミルフィーが、目を見開く。
「私、の……姿……?」
ミルキィが、思わず立ち尽くす。
「戦闘の中で、最も強大な存在を学習し、模倣したという事でしょうか」
アストラが、震える声で分析した。
目の前の黒い分身は、ミルキィと寸分違わぬ動きで拳を構え、不気味な沈黙のまま、こちらを見つめていた。
第三幕 迷いの正体
黒い分身が、まっすぐにミルキィへと突っ込んでくる。
ミルキィは、フルパワーの拳を構えた。だが――
「!」
自分と同じ顔、同じ姿をした相手に、拳を振り下ろす直前、ほんの僅かに、体が竦んだ。
「――ぐっ!」
その隙を突かれ、強烈な一撃をまともに受ける。
「ミルキィ!」
クルーンが叫ぶ。
地面に片膝をついたミルキィは、悔しげに顔を歪めながらも、静かに笑った。
「……そうだね。私と同じ、おバカさんなんだよ、キミは」
黒い分身は、答えない。ただ、じっとミルキィを見つめ返すだけだった。
「私ね、時々、本気を出せなくなるの。私の力って、加減が利かないから……怖くなる時があって」
ミルキィは、ゆっくりと立ち上がりながら、静かに語り続ける。
「そんな迷いまで、模倣しちゃったみたいだね。私が、完全無欠な最強だとでも思った?」
黒い分身が、僅かに揺らいだ。まるで、その言葉に何かを感じ取ったかのように。
第四幕 皆が繋いだバトン
「でも――」
ミルキィの瞳に、確かな光が宿る。
「今の私は、一分一秒前の私じゃない」
その脳裏に、これまでの旅の記憶が、次々と蘇っていった。
三角銀河トリオが、身を挺して時間を稼いでくれた事。
ウェルとの信頼に満ちた連携。
クルーンとホエードが、力を合わせて道を切り開いてくれた事。
そして、アストラが、精密な一撃でフルーツを取り戻してくれた事。
「皆が一緒に、戦ってくれた。皆が、繋いでくれたバトン」
ミルキィは、手のひらに残る果実の余韻を、そっと噛み締める。
(ありがとう、アストラちゃん。ありがとう、クルーン。皆……)
「本当の強さって、こういう事だよ」
ミルキィが、静かに、しかし確かな決意と共に拳を構えた。
「これは――皆の一撃だよ!」
放たれた渾身の一撃が、黒い分身へと吸い込まれていく。
「迷いを消して、銀河の闇を晴らしちゃうよ!」
拳が直撃した瞬間、黒い分身の体が、まるで氷が溶けるように、光の粒となって崩れていった。
「ぐ……」
声にならない声を残し、ヌルは、静かにその存在を消し去った。
ヴォイド宇宙の奥深く、長きにわたって渦巻いていた重苦しい空気が、ゆっくりと晴れていく。
第五幕 静寂の後に
「……終わった、のかな」
クルーンが、恐る恐る周囲を見渡す。
「はい。終わりました」
アストラが、静かに頷いた。
「ミルキィ、やったな!」
トライが、満身創痍ながらも嬉しそうに声を上げる。
「皆のおかげだよ! 本当に、ありがとう!」
ミルキィが、満面の笑みで一同を見渡した。
その傍らで、ミルフィーが、小さくため息をついた。
「フルーツがなくなったのは、残念だけど……」
少しだけ名残惜しそうにそう呟くと、すぐに表情を引き締める。
「まあ、スターナイツの役割は、しっかり果たせたようね」
「お姉ちゃん、そこは素直に喜んでよ!」
「べ、別に、喜んでいないわけじゃないわよ」
ミルフィーが、僅かに頬を赤らめながら、そっぽを向く。
その様子に、一同から笑いが零れた。
ヴォイド宇宙に、静かな光が戻り始めていた。長い旅の果てに、仲間たちの絆が、確かな勝利を手繰り寄せたのだった。
(つづく)
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