第十九話 ヌル、目覚める
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第一幕 ヌル、姿を現す
暗闇の最奥。そこだけ、まるで空間そのものが抉り取られたかのような、異様な虚無が広がっていた。
「……いた」
アストラが、静かに呟く。
虚無の中心に、輪郭も定まらない、黒い靄のような塊が漂っていた。何の感情も、意志すらも感じさせない、ただの空白――それが、ヌルだった。
「あれが……銀河を幾つも消し去った存在」
ミルフィーが、油断なく前を見据える。
「何も、感じませんね……。声も、気配も」
ホエードが、珍しく僅かな緊張を滲ませて呟いた。
その時、黒い靄が、ゆっくりと蠢き始めた。
第二幕 侮れない力
「来る、構えろ!」
トライの声と同時に、ヌルは輪郭のない体から、無数の触手のようなものを伸ばし、一斉に襲いかかってきた。
「くっ……!」
ラグルが、遠隔攻撃でそれを迎撃するが、触手は形を変えながら次々と再生し、いくら削っても数が減らない。
「――アストラルクランプ!」
アストラが呼び寄せた星団が直撃するも、ヌルの体は衝撃をそのまま吸収するように、僅かに歪むだけだった。
「効いて、いない……!?」
「油断しないで。これは、恐らく序の口だ」
ホエードが、冷静に告げる。
ミルキィも前に出て、拳を叩き込むが、手応えは希薄だった。
「なんだか……殴っても、殴っても、実体を捉えた感じがしない」
「ミルキィ、下がりなさい」
ミルフィーが、静かに前へ進み出る。
「私が――」
そう言いかけた瞬間、ミルフィーの体が、僅かによろめいた。
(まだ、本調子じゃない……!)
先の誤爆のダメージが、まだ完全には癒えていなかったのだ。
「お姉ちゃん!」
「大丈夫よ。少し、驚いただけ」
平静を装うミルフィーだったが、その一瞬の隙を、ヌルは見逃さなかった。
第三幕 第二形態への変貌
「!」
ヌルの黒い靄が、まるで戦いの中で何かを学び取ったかのように、急速に形を変え始めた。
「まさか……戦闘データを、取り込んでいるのか……!?」
ホエードが、驚愕の声を上げる。
やがて靄は収束し、禍々しい甲殻に覆われた、巨大な異形の姿へと変貌を遂げた。先程までの、掴みどころのない攻撃とは一線を画す、鋭く重い一撃が、瞬く間に一同へと降り注ぐ。
「ぐあっ!」
トライが吹き飛ばされる。
「くっ……!」
ラグル、アイルも、次々と地に伏していく。
「三角銀河トリオ!」
アストラが叫ぶも、彼女自身もヌルの一撃を受け、大きく後退させられた。
「アストラちゃん!」
ミルキィが駆け寄ろうとするが、その進路を、ヌルの巨体が塞ぐ。
「私が、時間を稼ぐ!」
ミルフィーが、痛みを押し殺しながら前に出た。だが、本調子ではない一撃は、これまでの彼女の力には遠く及ばなかった。
「お姉ちゃん!」
弾き返されたミルフィーが、地面に膝をつく。
第四幕 追い詰められる一同
「ぐ……。悔しいけど……これ以上は……」
ミルフィーが、悔しげに唇を噛む。
「みんな、大丈夫!?」
ミルキィが、必死に周囲を見渡す。トライ達も、アストラも、満身創痍だった。
「僕とホエードが、時間を稼ぎます!」
クルーンが、再び青いオーラを纏って前へ出るが、先程の激戦の疲労は、彼の動きにも確実に影を落としていた。
「クルーン、無理はしないで!」
ミルキィが叫ぶ、その時。
「――あれを、見て下さい」
ホエードが、ヌルの巨体の一部を指差した。
その甲殻の合間、体の中心とおぼしき場所に、淡く輝く、小さな果実のようなものが埋め込まれているのが見えた。
「あれは……!」
アストラが、目を見開く。
「まさか――ギャラクシーフルーツ……!」
ミルキィの声に、僅かな希望が滲んだ。
だが、それを守るように、ヌルの巨体が唸り声を上げ、再び全員に向けて攻撃態勢を取る。
「あれさえ、手に入れば……!」
ミルキィの拳に、力が籠る。だが、既に空腹を訴え始めた体は、思うように動かない。
「くっ……ここが、正念場ですね」
アストラが、傷だらけの体を起こしながら、静かにそう告げた。
絶体絶命の状況の中、一同の視線が、ヌルの中に眠る、小さな輝きへと集まっていた。
(つづく)
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