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05 国王陛下の晩餐会


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


1ヶ月ほどが経過した。神官様の見立てによると私の聖力も安定してきて聖女と言って差し支えない域、国王陛下にも報告を入れるそうだ。そして私は聖杯の洗礼を受ける。王族も参列するという。その時はシリウス殿下にお目にかかれるだろうか。


シリウス殿下とお話ししたことは、夢だったのではないかと思えてくる。私が見た願望の夢。あんな素敵な殿下が私の目を見て、私にあれこれと話しかけて、私を抱きかかえて。日が経つにつれて、そんなことは最初から無かったような気もしてきた。


そんなことを考えていると、晩餐会の知らせが入った。王命で準聖女らも参加せよとのことだった。ルミナス様から聖堂外での活動を禁じられていたが、流石に陛下の命には従わなければならない。


「きっと正式謁見前のお目通しですね、貴方の」


ということは。国王陛下には覚醒が伝達されたのだ。シリウス殿下は知っているだろうか。いまだシリウス殿下のことばかり気にかける自分に笑ってしまう。


「お召し物は準聖女服となりますが、全員ぶん新調しましょう」


私だけ目立たないように、一律で全員に新しい衣類が支給される。国王陛下の御前であるからと、仕立ての布は少し上等なものになった。


準聖女たちは少し浮き足立っていた。陛下にご挨拶をするのでと、王宮侍女が派遣され、顔に薄化粧を施される。髪も結ってもらった。いつもより小綺麗になって、準聖女たちは王宮の比翼に足を踏み入れる。

聖女ルミナス様は夜会服をお召しになるそうで、私たちとは別行動だ。礼服の近衛が開けた扉をくぐると絢爛な大広間だった。わいわいと歓談する声が天井に響く。夜会は基本的に身分の低い順に入場する。なので会場はまだ人もまばらかと思ったが、伯爵位まで入場済みだった。神官様が言葉を添える。


「ふだんはルミナス様がいますので実感しづらいかと思いますが、これがこの国でのみなさんの評価なのです」


私たちが入場すると、おしゃべりが少し止み、みなの視線がこちらに集中する。王宮侍女に習った通り、揃って礼をした。なかなかこのような場に参加しないせいか、興味津々といった視線を受ける。

「ルミナス様とはずいぶん違うのね」

という密かな声が聞こえた。振り返ると、近くにいたご令嬢が慌てて口元を扇で隠す。

おろし立ての制服に薄化粧までしてもらったが、やはりこのような華やかな場に合わないだろうかと思っていると、


「可憐な聖女様、ご挨拶させてください」


と声をかけられた。私たちの次に入ってきたから、おそらくは侯爵位の方だ。ご挨拶して良いのかどうかわからず、場内に目を泳がせ、後方にいた神官様を見つけて目配せすると、少し考えた後、彼はオッケーサインを出してきた。


私は習ったばかりの淑女の礼をする。


「アステリオン侯爵家のルクスと申します」

「準聖女のステラです」

「ステラ様、とても可愛らしいですね」


みんな似たようなことを言う。みんなと言っても2人目だけれど。シリウス殿下の言葉も社交辞令の定形文だったのだろうか。私はあの時と同じことを言ってみた。


「城下では猫にもよく付けられる名前でして……」

「猫?」

「あ、いえ何でもありません」

「ははは、まるで貴方が子猫のようですよ。そうやって私を試さないでください」


試す?私は試したんだろうか。


「どなたと交わした会話なのです?」


えっ何でわかるの!貴族すごい!


「心ここにあらずでしたので。社交会で、私は割とモテるんですよ?女性の心をよく見通せると」


口をあんぐり開ける私に、ルクス様は私の心を手に取るように言い当て、解説してくれる。それで相手は誰なのかと聞かれて、私は目を伏せて、答えた。その名前を口にするだけで心臓が破裂しそうになる。


「シリウス殿下です」

「うわぁ……」


うわぁ……。ってなんなんですか。ルクス様は白手袋を嵌めた片手で口を覆う。


「いえ、強敵すぎて勝てないなと思いまして」

「からかいが過ぎるのではないでしょうか」


小馬鹿にされているような気持ちになり、私は強めに拒否の言葉を口にした。


「ステラ様、ご不快に思われたならお詫びいたします。私は貴方を見たとき、本当に可愛らしい方だと思ったのです。しかし初対面のレディにそれを直接言うのは失礼ですから。お名前に乗せました」

ルクス様は優しく私を見た。

「きっとシリウスも同じだったのではないかと」


シリウスと呼び捨てるルクス様の顔をまじまじと見る。


「旧友なんです。いろいろと俺たち趣味が似ているんです。女性は初めてですが」


それからルクス様はシリウス殿下との思い出話をしてくれた。私の知らないシリウス殿下を知るたびに、心の隙間が埋まっていくような心持ちがした。


「声をかけて半刻もしないうちに振られるとは」

おどけてルクス様にそう言われるほど、シリウス殿下エピソードを聞くたび、私は破顔していたらしい。



公爵位の入場の後、王家入場の合図がされた。短くファンファーレが鳴る。私が目を皿のようにして入場口を凝視したので、ルクス様が苦笑いする。

「ステラ様、ほら王族は上からです」

少し屈んで私の耳元で囁きながら、広間の中二階を手のひらで指し示す。

「あ、ありがとうございます」

ひそひそ声で振り返ったら、ルクス様の顔がすぐそばにあって赤面する。

「すみません」

「いえご褒美でした」

ルクス様がそんなことを言うものだから私はさらに赤くなる。


気を取り直して顔を上げると、私たちが入ってきた入り口とは反対側の、中二階のバルコニーから王族の皆様が降りてきた。

その様子を見ているうちに、私は固まってしまった。


王族席から、顔を出したのは聖女ルミナス様だった。聖女服の意匠(デザイン)を踏襲した、白を基調とした夜会のドレス。デコルテを華やかに開き、大粒の宝石が連なったネックレスが胸元を飾る。まるで王女のような風格だった。そしてその手をとってエスコートするのは、同じく白いコートに身を包んだシリウス殿下だった。

私は拳を握りしめた。爪が皮膚に食い込むくらいに強く。大柄なルクス様が、再び屈んで耳元で囁いた。


「シリウスから何か言われてないですか」


何か?何かって。


「あれの注意事項みたいなものです」

「あ……聖女ルミナス様の機嫌をとります、と。それから、彼女のことを何とも思ってない、というようなことを言われました」

「なるほど。じゃあ、それを信じましょう」


私は半泣きになった。動揺してすっかり忘れていたシリウス殿下の言葉と、ルクス様の優しさに。


「笑ってください。涙を見たら襲いたくなるから」


ルクス様に甘い声で言われて、瞳に溜めていた涙が引っ込んだ。この方は本気とも冗談ともつかないことをさらっと投げ込んでくる。


そうやって私がシリウス殿下のエスコート姿に気を取られているうちに、続々と王家の皆様が入場していた。最後に国王陛下と王妃殿下がバルコニーから降りてきて、皆に向かって片手を上げた後、玉座に腰をかける。


自分の国の王を初めてこの目で見る。畏れ多い気持ちと同時に、シリウス殿下に似ていると思った。殿下よりも10歳ほど年上だろうか。金髪は長く伸ばしリボンでひとつに結っていて、毛先は柔らかなカーブを描いてくるくると巻き上がっていた。それ以外はそっくりで、同じ歳の頃なら瓜二つだったろう。国王陛下を見つめながら、10年後のシリウス殿下はあんな感じなのか……などと妄想する。


「見過ぎ、見過ぎです」


ルクス様が、ふふと笑う。


「シリウスが妬きますよ」

「そうでしょうか」

「俺もあとで潰されるかもしれません」


ルクス様がちらと王族席のほうを見て言った。

私はシリウス殿下の姿を見たい気持ちがありながら、隣にルミナス様もいると思うと、どうしても目を向けることができなかった。ルミナス様に牽制されていたというのもあるし、単に二人が並び立つ光景を見たくなかった。



⭐︎




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