04 聖杯様のご意志
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しばらく日々のお勤めに励む毎日が続いた。朝の聖杯への祈りは私の日課となったが、ものの5分で聖杯は満たされてしまう。私は聖なる力や加護が見えないが、聖杯からの『もういいよ』という感触は受け取れるから分かる。
聖女ルミナス様から押し付けられた仕事も、覚醒してからは疲れ知らずでそこまでつらいものではなかった。つらいのは、シリウス様を遠目に見ることすら叶わないこと。外の仕事はまったく与えられなくなった。
私は聖杯のお勤めをするとき、目の前にはいないシリウス殿下の無事を想って祈りを捧げた。今の私にはこれくらいしかシリウス殿下に自分を伝える術がなかった。
礼拝堂の仕事が毎日あるからという理由で、私の部屋は礼拝堂横の1人部屋になった。聖女ルミナス様も自分が命じた仕事なだけに、しぶしぶ居室の移動を了承したという。礼拝堂建立時に併せて造られたため、ずいぶん古く質素な室内だが、この区画は聖杯を守るために何人か護衛騎士が配置されている。
「ここなら聖杯様の護衛だという方便で、貴方の警護も増やせます」
神官様は何気に策略家だ。てっきりルミナス様の子飼いとばかり思っていたが「私の主は聖杯様なんです」と言っていた。そのあたりはさすが聖職者と言うべきか。私はちょっと興味半分に聞いてみた。
「聖杯様と意思疎通が図れるんですか」
「はあ、まあだいたいは」
真面目にそう返されて、私はギョッとなる。この人、ホンモノだ……。彼の中でどんな「設定」があるのか聞いてみたくなった。
「聖杯様はルミナス様に腹を立てたりしないのですか」
「それは人間の考えというものです」
神官様はきょとんとして私を見る。
「たとえば赤子がずっと機嫌悪くそばで泣き続けたとして、子猫に指をガジガジ噛じられたとして、貴方は怒らないでしょう?聖杯様にとっては、人間の悪行など可愛らしいものなのです」
意外と筋の通ったその話に、私は引き込まれていた。
「聖杯様は人間の人間らしいところがお好きなのです。人間が怠惰に過ごすのも、勤勉に過ごすのも、楽しく眺めてらっしゃいます。悩んで、苦しんで、笑って、泣いて、そんな国中の人間の様子を加護を振り撒きながら覗いておられます。加護は面白いものを見せてくれたサービスだそうです」
サービス……。その軽い感じに、思考が追いついていかない。
「そうそう、聖杯様は人間の、とくに恋愛がお好みですね。他の生き物は、強さに屈したり美しさに惹かれたり、あるいはただ本能のまま素直に番うのに、人間だけあれこれ余計なことを考えているのが面白いのだそうです」
「思ったより世俗的なんですね」
「わが国の有史以前から、途方もない時間を過ごしていらっしゃいますからね。刺激が欲しいのでしょう」
ふと私は他国にも聖杯はあるのだろうかと気になった。もしこの国にしかないのであれば。
「人間すべてがお好きなら、他国の人間に関心が向かわれたりしないのですか」
「たまに気分転換に国替えをしたくなるけど、今までの付き合いがあるから、ここでいいよ、とのことです」
か、軽い。聖杯様、なんかすごい軽い。最後なんて、今さっき回答をもらったような口ぶりなのだけど、これは聖杯様に心酔したイチ聖職者の戯れ言……だよね?
神官様を観察すると、至って真面目な様子で、そこにふざけた素振りはなかった。私はとたんに、え?あれ?本当に?と思って、急に背筋がヒヤリとした。
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