9.5 - 幕間 -
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ 幕間 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
ファーストキスをしてしまった。
甘い余韻で、頭の中がとろとろに溶けている。
国王陛下の執務室の帰り、シリウス殿下の私室に招待され、私は殿下といっしょにお茶をしている。最初は別々の椅子に座っていたのだけど、気づいたら殿下は私の隣にいた。お茶の葉の説明だか何だかで。
私はさっきの甘いひとときを反芻していた。そしてちょっと自分に酔っていた。
「はじめて……キスをしました」
「すみません、はじめてではないんです」
ウキウキ幸せな気持ちで呟いたら、深刻そうな口調でそう返ってきて、私は感情の崖を滑り落ちる。そうですよね、殿下ほどの美青年、キスのひとつやふたつ、そりゃあしていますよね。私が落ち込んでいるとシリウス殿下が取りなしてくる。
「言おう言おうと思っていたのですが、ずっと言い出せなくて」
「いえ、そんなこと事前に言われたら悶々としていたと思うので。大丈夫です」
「その時は私も夢中で、何度も唇に触れてしまいました。申し訳ありせん」
なんだか急にリアルになってきたんだけど。殿下が夢中になった過去の恋話なんて耳を塞ぎたいのに。
「そういうの、殿下の口からくわしく聞くのはちょっと」
「そうですよね、気が利かなくて。状況は神官殿か侍女に確認いただければ」
神官?侍女?
「あの、何の話ですか」
殿下は珍しく、しどろもどろになりながら教えてくれた。
「ステラ様が倒れた日のことです。はじめて会った日の。確認したら呼吸がなくて、その、私が介助をしました」
殿下は声が小さくなる。
「本来なら薬師がするべきことなのですが、薬師が男だったので、つい、代われと言って、私が呼吸の補助を。遠征で処置自体の経験はありますが、その、私情を挟んで申し訳ありません」
私は拍子抜けして肩の力を抜く。なんだ呼吸送りのことか。
「人助けですよね、それ」
「はい、もちろんです」
「だったらそんなこと気にしないです。むしろ、助けていただいてありがとうございます!」
お礼を言う私に、殿下はほっとしたようだった。私はようやくピンとくる。
「さっき、はじめてではない、と言ったのは殿下と私がはじめてではないという意味ですか」
「まあ、そういうことですね」
殿下はこの話はもう終わりたそうに素っ気ない。
「あの、私が気にしているのは」
殿下はうんと頷いて、
「殿下のファーストキスがいつなのかってことです」
それから苦笑いをして言った。
「見栄を張らせてもくれないんですか」
少し咳払いをして殿下は言う。
「人命救助を除いて、貴方がはじめてです」
意外!!でも嬉しい!!どうして今まで無事だったんですか??殿下の唇は!!
私は心の中で叫んだと思ったら、うっかり声に出していたらしい。殿下は「ははははは」と愉快に笑う。
「私はそんなに女性が得意ではないんです。騎士学校も男ばかりでしたし」
「でも回りが放っておかないのでは」
「いえ特に」
そんなはずはない。きっと眩すぎて遠巻きにされていただけだ。
「すごくかっこよくて、優しいのにそんなことあります?」
それには答えずに、シリウス殿下は私をじっと見て、肩を抱き寄せた。
「口付けをしてもいいですか」
「はい」
国王陛下に言われたことを守っているのか、急に断りを入れたのが可愛かった。頬を両手で挟まれて、唇に唇が重なる。殿下は肌も艶々だなあとうっとり見ていると、唇が離れた。
2回目!2回目のキスだ!今日の日記に絶対書こう。
「ステラ様が私をかっこいいだなんて、すごく嬉しいです」
「はい、かっこいいうえに、お肌も私よりすっごく綺麗で」
「あの、もしかして目を開けていました?」
「えへ」
シリウス殿下の片手が伸びてきて、私は瞼を下ろされる。殿下は片手で目隠ししながら、優しく下唇をついばんだ。目隠しのせいか、軽く触れただけなのにそれはとっても刺激的で、私は溶けて消えそうになる。
「次からは目を閉じてくださいね。恥ずかしいので」
「ハイ」
私の目元に添えていた手が離れると、私はこくこくと頷いた。
「しかし目を閉じるタイミングがわかりません」
「はは、練習しましょうか」
シリウス殿下は私の髪を撫で始める。これはこれでなんか良いなと思っていたら、ふいに私をじっと見つめて顔を近づけてきた。私はすっと目をつむる。しかし目を閉じてから不安になる。ちょっと早かったかしら。違ったらどうしよう。
そう思ってどきどきしていると、唇に唇が触れる感覚があった。正解だ。良かった。
そっと目を開けると、私を見つめる殿下がいる。
「目を閉じて、キスなしだったらどうしようかと思いました」
「そんな失礼なこと絶対しません」
「じゃあ私が目を閉じたら、必ずキスをしてもらえる……ってことですか?」
「えっ?まあ、そういうことかもしれません」
さっそく試しに目を閉じてみた。冗談半分、期待半分だったけれど、少し間があった後に、殿下がずいぶん長めのキスをくれた。
「キスってこんなに何回もするものですか」
「実は私もわかりません」
そう言って殿下は私の肩にもたれかかる。何これは?甘えん坊殿下??
肩と腕に殿下の体の重みを感じながら、あれ、ところで今、何回目のキスだっけ?と考える。すでにわからなくなっている。私は殿下にされたキスを1回目から順に思い出しながら、指を折ってカウントし始めた。すると指折りしていた手を殿下がそっと上から包む。
「あの、数えるのもナシでお願いします。恥ずかしいので」
そうお願いする殿下がとっても可愛かったので、日記にキスの回数を記録する計画はやめにした。
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