ソブリンに舞う花吹雪ー結婚してくれ!
ハリス社長のプロポーズ!しかし船内はえらいことに。
ニューヨークに到着したソブリンが、パーティーの準備に追われていた頃、1人の男が誰より早く乗船した。
彼を出迎えたのはリヒトだった。
「ハリス社長。ようこそ、ソブリンへ。」
愛船クリスタニアの生みの親ともいえる、ブルーリッジクルーズ社長ハリス・ブライトマンだ。
ハリス社長は、リヒトを見るなり両手を差し出した。
リヒトはその手を握り返す。
「やぁ!君がキャプテンとして出迎えてくれるなんて!」
「社長がサガを手放してくれなければ、私はただの航海士だったかもしれませんよ。」
「こちらこそ、感謝しているよ!ところで、例の件は?」
ハリス社長は声を落とした。
「ご心配なく。今あなたの恋人はパーティーの準備のためにドレスサロンにいます。
仕度が出来たら、チャペルにお連れしますので、社長はそこでお待ちを。」
リヒトがサプライズについて説明すると、ハリス社長はソワソワしながら言った。
「彼女のドレス姿は女神のように美しいんだ。こっそり見ちゃダメか?」
リヒトの答えはもちろん…
「ダメです。」
その頃、ドレスサロンにいた影千夜は、ベアトップの美しいマーメイドドレスに身を包み、よく分からないままヘアメイクを施されていた。
横で夏葵が、目をキラキラさせている。
「姉さん♡とっても綺麗です♪」
本人は、パーティーで踊らなければいけないため、藍色と銀の刺繍のお引摺りを纏い、髪には豪華な銀の髪飾りをつけている。
「おかしいわぁ。今夜のパーティー、うちも踊るはずやったのに…、何も聞いてへんの?」
影千夜は、ヘアメイクに尋ねた。
「ゲスト名簿に変更があったようで、それに合わせてプログラムを変更したそうです。少し簡略化になったので、影千夜さんはパーティーをお楽しみいただくようにと、日向キャプテンが。」
影千夜は、横目で夏葵を見ながらため息をついた。
「まぁ、パーティーにこの子出席さしたら、色々心配やろぅからねぇ。」
「まぁ、そんなとこですかね。さ、影千夜さん、どうでしょうか?」
仕上がりの確認のため、ヘアメイクは手鏡を渡す。
それを見ながら、影千夜はあることに気づく。
「…なんで花嫁さんみたいなんやろか。」
ヘアメイクは、ニコニコしながら言った。
「確かに花嫁さんみたいですが、今夜のドレスコードは、ソブリンがテーマなんですよ。ソブリンは白くて豪華な船ですし。」
もちろん、そんなわけがない。
怪訝な顔をしながら、影千夜は立ち上がった。
(絶対なんかあるって思ってるよー!)
ヘアメイクは、そう思いながら迎えにきたクルーに目配せをした。
一方、船内チャペルでは、仕度を整えたハリス社長が、落ち着かない様子でウロウロしていた。
それを見たリヒトは、思わず言った。
「社長、ロイヤルネイビーの提督の前で公開プロポーズと、どっちがマシだと思います?」
「そりゃあこっちの方がいいに決まってる!」
「なら、少し落ち着いてくださいよ。」
そうこうしている間に、チャペルの扉が開かれた。
「ハリー!なんでここにおるの?」
ハリスの姿を見た影千夜は、目を見開いて固まった。
「美月!!」
ハリスは顔を輝かせながら、早足で近寄った。
そして、恋人のドレス姿をひとしきり堪能すると、その場に跪いた。
「美月!ずっとこの時を待ってたんだ!俺と結婚してくれ!一生のお願いだ!!」
そこには、美月の誕生石でもある大粒のムーンストーンに、幾つものダイヤがあしらわれた指輪があった。
影千夜は、そのまま屈んで答えた。
「あんたの一生のお願い、何回あるんやろ。けど、うちあんたが大好きやから、そのお願い聞いたげる。」
それを聞いたハリス社長は、指輪を美月の指にはめると、美月を抱き上げて喜んだ。
「今夜は人生最高の日だ!!」
その瞬間、潜んでいたクルーたちが、日向キャプテンに命じられたとおり、吹雪のようにフラワーシャワーを浴びせた。
白薔薇の花びらが雪のようではあるが、その風景はまるで東北の吹雪のようである。
(やりすぎだぞ…!)
リヒトは、顔に張りついてくる花びらを何度も取っては投げつけた。
鼻にも口にも入りそうなフラワーシャワーを、何度も手で叩き落とす
そして、ニコニコしたまま合図をすると、ソブリンの照明が全点灯した。
大きな拍手で盛り上がるチャペルを眺めながら、日向キャプテンは弟陽司につっこまれていた。
「なにあれ。まるで北海道じゃねえの。だから言ったのに。」
「何を言っている。ハリス社長が喜んでるんだ。十分だろう。」
「あの大量の花びら…どうすんだよ。」
陽司はため息をつきながら、指をパチンと鳴らし指示を飛ばした。
「サプライズは終わった。2人がチャペルを出たら、すぐフラワーシャワーを回収しろ。飾ってある花は、ハリス社長の部屋に飾りなおせ。」
弟の指示に頷くと、日向キャプテンは何事もなく去って行った。
(到着初日なのに、何で俺こんなに疲れてんの…)
そんな陽司を、警備犬カイザーはそっと見上げた。
パーティー開始まであと1時間。
カイザーはそろそろお腹が空いていた。
無敵の艦隊統括日向キャプテンですが、ロマンチックのかけらもありゃしません。




