二つの時間ーマンハッタンに揺れる薔薇
ローズとエディになにやら…
ニューヨークには、二つの時間が流れていた。
とある美術館で開催されている文化交流会。
日本から各界の大物が招かれ、展示や演舞の披露、日本酒や日本食の提供などもあり、実に華やかだ。
建屋の中には展示が、庭のステージには演舞が。
その中で、日向キャプテンの娘夏葵は一際注目を集めていた。
「なんと可憐な…。」
「美しいな。まるで花が踊るようだ。」
「まだ若いのに、素晴らしいな。」
舞台で艶やかに舞う娘を見ながら、日向キャプテンは静かにグラスを傾けていた。
(あれほどの実力があるとはな…。さすがは俺の娘、というべきか。)
そこに富士崎社長が声をかけた。
「あなた。夏葵ちゃんの踊りに見惚れてるの?」
先程まで要人や関係者に挨拶したり、ニューヨーク支社の社員たちと話したり忙しそうだったが、ひと段落したのか、手にした皿には珍しく料理がこんもりと乗せられている。
「そうだな。正直、あそこまで実力があるとは思っていなかった。」
「あなた、前から思ってたけど。女を甘く見すぎてると思うわ。」
富士崎社長は、料理をつまみながら続けた。
「誰かへの気持ちがあれば、案外頑張れるものなのよ。どんなに辛くてもね。」
「君もそうなのか?」
日向キャプテンは、富士崎社長の横顔を見つめながら尋ねた。
「そうよ。こんなに急激に船を増やすなんて、三井会長の計画にはなかったもの。でも、私はあなたとの子を産むつもりで頑張っただけなの。結果、色々タイミングも合ってうまくいったわ。」
「俺との子か…」
日向キャプテンは、クリスタニアが白い大きな花輪やブーケを船首やバルコニーの手摺につけ、晴海埠頭に現れた朝を思い出していた。
"daddy,mammy,
Happy wedding!"
長音を鳴らしながら、現れたクリスタニアに驚き、さらに他社船も巻き込んでのサプライズに言葉が出なかった。
「そうかもしれないな。」
舞台で踊る夏葵を見ながら、夫婦は平和な時間を過ごしていた。
同じ頃のマンハッタン。
高層階にある会社のフロア。
扉の前に
「キャピタル・ウォーデン」の文字が書かれている。
そこに、レイコの姉ローズは立っていた。
呼び鈴を押すと、社員が一室に案内してくれた。
「ローズ・ハワード様がお見えです」
そこには、キャピタル・ウォーデン取締役のベルンハルト・フォン・フリートヘルムがいた。
「レディ、お待ちしていましたよ。マンハッタンまで来てくださるとは。」
「気晴らしついでですわ。」
ローズは薔薇のように明るい笑顔で、小さな包みを手渡した。
「ベルンハルト様がお好きな茶葉ですわ。今回は少し薔薇の香りをつけてありますの。」
「おぉ!これはありがたい!さっそくいただくとしよう。
ちょうど打ち合わせも終わりましたので、よろしければランチはいかがかな?」
「えぇ、喜んで。空港からまっすぐ来たのでお腹がぺこぺこですわ。」
ベルンハルトは、紳士らしく腕を差し出した。
ローズは、静かに腕を絡めた。
ビルのエレベーターの扉が閉まる。
ニューヨークは見事な青空だ。
ロンドンの曇り空とは正反対に。
このあと、エディとローズの明かされなかった関係が明らかに。




