二つの街ー彩られるソブリン
ニューヨークに着岸したソブリンは、すぐにクルーの交代を行った。
3日ほど停泊になるため、時間の余裕はある。
それでも、全体のスケジュールを見れば、最大限クルーに配慮した日数だ。
リヒトたちが船内に入ると、着物をリメイクしたロングドレスを着た富士崎社長と、正装の日向キャプテンが出て来た。
黒地に銀の薔薇の模様が描かれたドレスを選ぶあたり、社長らしい。
「キャプテン、急がせてしまって申し訳ありません。後のことはお願いしますね。」
「ヴァルナー、私は社長と交流会に参加した後に、ひとまず船内に戻るが明日は1日不在にする。頼んだぞ。」
「畏まりました。」
「それから、重要な引き継ぎがある。詳しくはブリッジに共有した。二階堂たちから聞いてくれ。」
「もしかして…ハリス社長のことですか?」
日向キャプテンは、渋い顔で頷いた。
その様子を見ていた富士崎社長は、口元に手を当てて笑った。
「意外なことで驚いたけれど、楽しそうじゃありませんか。私もワクワクしているわ。」
そこに二人を社員が迎えに来た。
「社長、キャプテン、お時間です。」
「あぁ。頼んだぞ。」
日向キャプテンは、そっと富士崎社長に腕を差し出した。
自然なエスコートも、優雅で美しい。さすが艦隊統括である。
(レイコもあれぐらいお淑やかだといいんだがな。)
リヒトは、本人が聞いたら怒りそうな感想を心で呟いて、ブリッジに向かった。
ブリッジの扉を開けると、二等航海士の三井が声をあげた。
「あーー!雄馬兄ちゃん!久しぶりじゃん!」
「うぉー!陽太!元気だったかー?」
「超元気だよ!兄ちゃん、また筋肉ゴリラ度増したんじゃね?」
「飯ばかりの食いしん坊モンキーとは違うんだよ!」
「ところで、脩太郎じいちゃんは?」
「じいちゃんは交流会に行ったぞ。停泊最終日までは、アメリカギャルと遊ぶぞーって張り切ってた。」
「しょうがねぇなー。」
親族同士の和やかな会話を聞いていたリヒトだが、ふと思い出したように二階堂に言った。
「日向キャプテンから申し送りがあった。今後の予定はどうなってる。」
「この後は、こんな感じです。」
二階堂は端末を見せた。
それを見たリヒトは、溜息をついて指示をだした。
「今夜のパーティーまでを考えると、余裕がまったくないな。今のうちに休める者は休め。
ホテル部門は人員交代して、すぐ作業に取り掛かれ。」
「了解です!」
少しして、ニューヨーク支社の社員たちと、大量の花を抱えた業者が船内チャペルのデコレーションを開始した。
瞬く間に、チャペルはおとぎ話のように美しく彩られていった。
同じ頃、ソブリンが慌ただしい時間を過ごしていた頃のロンドン郊外。
大きなお腹を抱えたレイコは、ハワード邸の犬たちと、木陰でのんびり本を読んでいた。
三頭のシェパードたちは、レイコのお腹を守るように、寄り添って眠っている。
そこに、エディがやってきた。
「レイコ、キョウコ夫人がベビーのベッドを組み立ててますよ。」
「まぁ!どんなのかしら。」
レイコがゆっくり立ち上がると、犬たちも揃って立ち上がる。
それを見たエディは笑った。
「すっかりベビーのガードマンですね。」
「最近、バスルームまでついてこようとするのよ。」
レイコは困ったように笑う。
「予定日まで、あと一月とはいえ、心配なんでしょう。」
「そういえば、最近ローズお姉様はどうしてるの?見かけないわね。」
「あぁ、このところずっとニューヨークに行ってますよ。フリートヘルム氏のところに行ってます。投資家ですからね、彼女も。」
レイコは、それを聞いてなんとなくモヤっとした。
「そうなの。ベビーが生まれる頃には、帰ってくるわよね。」
「帰ってくると思いますよ。ベビーに会えるのを楽しみにしてますから。」
庭の白薔薇の花びらが、風に舞った。
花びらが落ちた先には、アンティークの兜が飾られていた。




