女王の涙ー泣いたことなどないのにな
ビクトリアとマックス。
DMCを背負うのはこの二人…かもしれません。
ソブリンが晴海を発って数日後
三井たちクリスタニアクルーはニューヨークに降り立った。
手配されたバスに乗り、近くのホテルに着くと、ロビーにニュースが流れていた。
"ノルウェーに本社を置くPreceptクルーズは、Dream Meditation Cruiseから、13万GTクラスの超大型船を取得したと発表しました。
本社によりますと、Dream Meditation Cruiseとの業務提携により、運航本数を今後拡大していきたい、としています。"
映し出された白い巨船を見たヘンリー船長は、すぐに気づいた。
「 prisonerか。しかしよく買ったもんだ。Preceptにそれほどの資本力があったとは思えんが。」
「そういえば、Alluringとビクトリア船長どうしたんすかねぇ?」
三井は、いつかのAlluringを思い出していた。
同じ頃、Alluringはサウサンプトンにいた。船名は消され、灯りもなくレーダーすら回っていない。
「何故ですの?Alluringまで染め直すですって?今までのキャリアを捨てろと?!」
DMC本社では、船長のビクトリアが、新総帥マーカス・ブラッドフォードに詰め寄っていた。
グループ再建のために、染め直し船名を変え、大幅に改修すると聞かされたためだ。
それは、これまでキャリアを築き上げてきたビクトリアにとっては、屈辱でしかない。
生き残るために必要なことは分かっているが、愛船の全てが塗り替えられることは、どうにも受け入れられなかった。
僚船2隻は、とうに売却され自分たちしかいない。
やるしかない、というのにだ。
「ラフィアン。君のこれまでの我が社への忠誠、そして実績は十分評価している。それを鑑みてのことだ。他に誰があの船を動かせるというのだ。君は、素晴らしい船長であり女優だ。君にしか頼めん。
だが、君の気持ちは理解できる。だから無理強いは出来ん。
改修に入れるまで、まだ時間はある。それまで考えてみて欲しい。」
ブラッドフォードの言葉に、何も返せなくなったビクトリアは、黙って本社ビルを出た。
冷たい雨が石畳を打っていた。
「キャプテン。」
外には、副長のマクシミリアンが立っていた。
「お前たちを守ることもあたくしの仕事…。でも…」
ビクトリアは、血が滲むほど唇を噛みしめた。
マクシミリアンは、黙って近づくと傘を差し出した。
「キャプテン。いや、ビクトリア。
俺たちなら、いくらでも演じきれると思わないか?」
「出来るわよ。やってみせるわよ。でも、あたくしの愛船よ!あたくしの全てよ!」
ビクトリアは睨みつけるように、マクシミリアンを見上げた。
涙なのか、雨のせいなのか、ビクトリアの顔は濡れていた。
その足元には、Alluringが燦然と輝く写真が落ちていた。
写真は水溜まりの中で、虚しくぼやけていく。
(泣いたことなど、一度もないのにな…)
マクシミリアンは、そう心の中で呟いた。
路面に映る二つの影は、傘の下で重なる。
それは、後に白いフェニックスと呼ばれるようになる、巨船ジェニュインの始まりでもあった。
プライドが高いビクトリア船長。
どうやらビクトリア船長を愛しているらしいマックス。
それはそれで、いい味出している二人でした。




