ニューヨークは忙しいー謎のお連れ様
ハリスの恋人って誰なんでしょう。
ソブリンの松の舞台が話題になっている頃。
ニューヨークにあるBMMクルーズアメリカは、てんてこまいだった。
ソブリンに現在乗船しているゲストだけが全てではない。
ニューヨークから乗るゲストも、当然いる。
「ブルーリッジのハリス社長、何て?」
社員の一人はキーボードを叩きながら、別の社員に尋ねた。
「乗るんだけど、愛する恋人とイギリスに一緒に行きたい。とか言ってるんだよね。それは誰なんだって話よ。」
ため息をつきながら、その社員は答えた。
「あれ?ハリス社長二人で出席申し込みしてなかった?」
脳内で乗船リストをめくった社員は、そんなことを思い出す。
「うーん。そうなんだけど…準備はしたんだけど。」
「念のため聞いたよ。どんな人か。お料理のこともあるしさ。」
「そんで?」
「ハリス社長『僕の恋人は、君たちがよく知ってる人だよ』って笑って終わったー。」
ニューヨークのオフィスが、疲労困憊の溜息をついた頃、マンハッタンの高層階の部屋で、ニマニマと写真を眺める男がいた。
ブルーリッジクルーズCEOのハリス・ブライトマンである。
「お前ー、気持ち悪いぞ!朝からニヤニヤしやがって!」
この程、超大型船Brought to Light船長となった、ジェラルド・サリバンの声だった。
「いいじゃないか!お前と違って、俺はしばらく恋人に会えてないんだ。やっと会えるんだ。嬉しいに決まってるだろ。」
デスクの上に飾られた写真には、美しい日本人女性とハリスが仲睦まじく寄り添う姿があった。
ジェラルドは親友の恋人のことは知っている。
(こいつめ。今まで散々取っ替え引っ替えだったのに、今の恋人と、はて何年付き合ったんだか。そのまま結婚しちまえばいいのに。)
そんなことを思いながら、ジェラルドは、コーヒーを飲み干した。
同じ頃、空港に降り立ったリヒトは、迎えの車に乗りながら社員から説明を聞いていた。
「…という訳で、定まってないのはハリス社長とお連れ様だけなんです。」
リヒトは端末を見ながら言った。
「まぁいい。どうにかなる。それより、ニューヨークからイギリスまでだが、だいぶ高齢のゲストがいるようだ。万が一のことを想定しておけ。」
「かしこまりました。もしもに備えて、いつでもヘリが飛べるようにしてはありますけど。」
「ヘリだけではダメだ。それぞれエリアのコーストガードをもう一度確認しておけ。どうにもモヤモヤする。」
「キャプテンの勘、航海士時代からよく当たりましたもんねぇ。」
そう言って社員は、運航ルート全てのエリアのコースガードを確認し始めた。
晴海からニューヨークまで1ヶ月と少し。
出来る限りの準備を進めているはずなのに、リヒトには、なぜか拭えない不安があった。
ハリスの恋人?
「君たちもよく知ってる人だよ!」
…いや、知らんしな…




