ソブリン出港ーキャプテンの背中
ソブリン出港です。
通常、こんなに厳しいスケジュールになることはありません。
アルベルトを見送ったリヒトは、翌日ニューヨークに発つことになった。
移動時間と、クルーの休養時間、ソブリンのスケジュールなど諸々を鑑みて、リヒトが先にニューヨークで調整を行い、その後にヘンリー船長たちがニューヨークに来ることになった。
臨月間近のレイコは、このところどうにも動けなくなっていた。
とにかく体が重い。
ベビーは元気いっぱいだ。
夜は静かにしていてくれるが、寝返りをうつにも一苦労だった。
リヒトがニューヨーク行きのためのパッキングをしていると、レイコがお腹を抱えてやってくる。
「ニューヨーク行く前に、ベビーの名前を決めて欲しいのよ。
何かある?」
リヒトは手を動かしながら言った。
「そうだな。俺の個人的な希望なんだが、男の子ならレオン。女の子なら君が決めてくれ。とはいっても、どっちか分かってるんじゃないのか?」
「知りたい?」
レイコはウフフと笑いながら言った。
「いや…言うな!楽しみがなくなる!」
「女の子なら、ロスウェンにしたいかな。クリスタニアが帰ってきた時だったしね。ベビーが来たの。」
リヒトは少し考えて納得した。
「白薔薇か。BMMらしいな。」
「あなたが最初に抱っこしてくれるように、頑張るわ!」
「船の中で産むつもりか?」
「それはベビー次第よ。だってパパ大好きっ子だもの。」
リヒトとレイコは、この時お腹の子がいいことを思いついた!と一人でニコニコしていたことに気づいていなかった。
リヒトがニューヨークに発つ前日のこと。
晴海本社では、日向キャプテンが支度をし、副長たちとブリーフィングをしていた。
「ニューヨークからは次席とヘンリー船長がクリスタニアクルーを連れて乗ることになっている。
晴海を出てカナダまでノンストップだ。各自準備しておけ。
ゲストとVIPのリストは端末に共有してある。
出港時刻は霧が発生する予報だ。海自出身者は見張りに立ってもらいたい。」
そんな父の様子を見ながら、夏葵はケーキを食べていた。
富士崎社長が、出港前にとエディブルフラワーのケーキを焼いてくれたのだ。
とはいえ、これから着物に着替えなくてはならず、全部食べきれそうにない。
「姉さん、これパパにあげてもいいですか?」
「ソブリンの部屋に冷蔵庫あるぇ。
お部屋に待っていくとよろしぃわ。出港してからしばらくは、食べる暇あれへんさかい。」
夏葵はつまらなそうな顔をした。
そこに着物姿の夏海がやってくる。
太陽のような金色の訪問着に、白薔薇の帯を締めた艶やかな姿は、とても美しい。
「わぁ。夏海さん、すっごく綺麗♡」
「あらぁ?夏海ちゃん、それ陽司坊ちゃんがプレゼントしてくれはったのと違う?」
影千夜は、夏海の髪にある豪華な髪飾りを見た。
「わぁ、簪も白薔薇だー♪」
「これなぁ、随分と前にうちの人がくれたんよ。『夏海は俺だけ思ってればいいんだ!』とか言うてねぇ。うちは飽きるほど毎日思ぅとるのにねぇ。」
「仲良しですねぇ♪」
そこにブリーフィングを終えた二階堂がやってきた。
「そろそろお支度をお願いします!
月乃ちゃん、今夜は霧が出そうだし夜は冷えるから、ソブリンの部屋にあったかいもん用意しといたよ。後で影千夜さんたちと食べてあったまってね。」
「わぁ♡何かなぁ♪二階堂さん、ありがとうございますぅ♪」
そして、日が暮れ始めた頃、ソブリンのレーダーが回り始めた。
ソブリンに、琴の音色が響く。
松の舞台には、制帽を深く被った日向キャプテンがいた。
「スタンバイ。」
その一声と同時に、松の舞台に敬礼を捧げた日向キャプテンの背中は、何かを決めたようにも見えた。
リヒトとレイコのベビーはどっちでしょう。




