戦友との別れー新世界への旅立ち
DMCの中でも、それなりに人情や友情はあったようです。
晴海本社で感動の一幕があったことなど知る由もなく、クリスタニアは短期間クルーズを終えてサウサンプトンに着岸した。
冬のサウサンプトンは薄曇りだった。
灰色の空の下、白い巨船クリスタニアは静かにタグボートに押されながらバースへ近づいていく。
冷たい海風の中、デッキクルーたちは慌ただしくラインを確認していた。
だが、その反対側のバースに停泊する船を見た瞬間、リヒトは目を細めた。
見たことのない白い巨船だった。
雪のように白い船体。
新しく描かれたPreceptのエムブレム。
だが、そのシルエットには見覚えがあった。
「あの船は?」
スケジュールを届けに来たBMMクルーズ社員は、少し声を潜めた。
「あれは、元DMCのprisonerですよ。船名を変えてPreceptに売却されたそうです。クルーも丸ごと引き受けたとか。」
「prisonerだと?」
リヒトは思わず聞き返した。
かつてDMCを象徴するような巨大船だった。
しかし、長い係船と混乱の中で、その名は半ば幽霊船のように扱われていたはずだった。
「はい。今はNy verdenという名前になったそうで、ノルウェー語で新世界っていう意味なんですって。」
「新世界か…。」
リヒトは小さく呟いた。
「確かアルベルト船長も移籍するって聞きましたけど。」
「アルベルト…」
その名を聞いた瞬間、リヒトはかつての戦友を思い出した。
同じドイツ出身ということもあり、アルベルトとは自然と気が合った。
どうでもいいことで笑い、何度も喧嘩した。
荒天の夜も、トラブル続きの航海も、気づけばいつも隣にいた男だった。
「新世界か…。頑張れよ、戦友。」
リヒトは静かに白い巨船を見つめた。
同じ頃。
Ny verdenのブリッジから、クリスタニアを見つめている男がいた。
アルベルト・クリューガーである。
「ヴァルナー。いつかキャプテン同士、またゆっくり酒でも飲もう。じゃあな、戦友。」
その時。
Ny verdenの長音が、冬の港に3度響き渡った。
低く、長く、まるで再出港を告げるような汽笛だった。
少し遅れて、クリスタニアも長音を返す。
白い巨船同士の汽笛は、灰色の空へ溶けていった。
男たちの友情は変わらない。
それがどんな海だとしても。
ニューヴェルダンは、アルベルトたちクルーと共にノルウェーへ。
クリストファーとエヴェリーナは、その後どうしているでしょうか。
続きをお楽しみに!




