二つの向日葵ー晴海埠頭の夜
ようやく…です。
カイザーが掘り起こした螺鈿の小箱にあったのは、陽司も見覚えのあるものだった。
「これは…」
店のカウンターで、晴海がよく書き物をする時使っていた、美しい模様の入った万年筆だ。
そして、小さく折り畳まれた手紙には『夏葵へ』と書かれていた。
「夏葵…?」
日向キャプテンは、月乃の顔を見た。
その手紙を読んだ月乃は大きな目に涙を浮かべていた。
月乃は、何も言わずもう一枚の手紙を日向キャプテンに渡した。
そこには
"あなたがこの手紙を見つけた頃には、私はもうこの世にいません。
でも、あなたの隣にいるのはあなたの娘夏葵です。この子はあなたの子である前に、船たちに愛された子です。あなたが受け入れなくても、夏葵はきっと立派に育つでしょう。私は、夏葵に立派な父親を見せたかっただけ。あとは運命に委ねることにするわ。あなたと奥さんの幸せと、夏葵の幸せを船と一緒に見ているわ。晴海"
震えた文字で書かれたその手紙に、日向キャプテンは言葉を失い、膝から崩れ落ち蹲った。
「兄貴!」
陽司は駆け寄ろうとしたが、夏海は黙って引き留めた。
月乃は、ポロポロと涙を溢して言った。
「キャプテンが私の…パパなんですか…?私、頑張ったんです。踊りもお仕事も頑張ったら…いつか…いつかパパに会えるんじゃないかと思って…」
日向キャプテンは静かに声を絞り出した。
「君のお母さんは、俺が船乗りになって最初に愛した人だ。
何も言わずいなくなったと思っていた…。だが…キャプテンになった俺に…こんな贈り物を遺してくれたんだな…。夏葵、すまなかった。もう1人にしないから…。」
「お父さん!私…、お父さんと奥さんの邪魔は絶対にしないから、ちゃんと頑張るから…」
そこに静かに草履の音がした。
「夏葵ちゃん。」
振り返ると富士崎社長と影千夜がいた。
富士崎社長は、ストールを優しく月乃にかけた。
「ねぇ、夏葵ちゃん。私はあなたのお母さんにはなれないの。だって、私はBMMグループ全ての船のお母さんだから。
でもね、私の大切な船たちの家族だから、あなたも私の大切な家族よ。キャプテンは私の旦那さん。あなたはキャプテンの娘でしょ」
その言葉を聞いた夏葵は、富士崎社長に泣きながら飛びついた。
「夏葵ちゃん、おにぎり作るの上手なんですって?私、あまり上手ではないの。今度一緒に作ってくれない?キャプテンがまた倒れたら困るから。その代わり、あなたに素敵なケーキを焼いてあげる。キャプテンもお好きなの。あなたにも食べてもらえたら嬉しいわ。」
富士崎社長は、微笑みながら言った。
陽司とカイザーは顔を見合わせた。
「夏葵、おにぎり食おう。カイザーが腹減ったって言ってる。」
影千夜は、大きなブランケットを広げた。
「今夜は月も綺麗やさかい、きっと美味しいやろねぇ。出港前にこんな素敵なピクニックができるやなんて。たまにはえぇもんやなぁ。」
夏葵は蹲ったままの日向キャプテンに近づいた。
「お父さん、また一緒にご飯食べてくれる…?」
日向キャプテンは、ようやく顔を上げた。
「あぁ。今度は俺が、お前が好きなものを作ってやろう。」
そして、夏葵の頭を優しく撫でた。
遠くでどこかの船が汽笛を鳴らした。
ルナディアの船旗は、優しい風と揺れていた。
日向キャプテンと夏葵ちゃん、
やっと親子として会うことができました。




